第4話
枯れた大地。
渇いた作物。
たれたイコ。
「マグから手紙がきた。順調に探索が進んで、迷宮でエルフの美女を助けて仲間にしたらしい」
「そうなんだ。ボクが苦しんでいるのにいい身分だね」
暑さでイラついているらしい。
戦争になったらすぐに駆り出される冒険者がいい身分なのは当たり前と思うべきなのだろうか。
「そうカリカリするなよ。マグも頑張ってるんだから、多分」
「他人の努力とかそんな紙きれ一枚とかよりも水が欲しいよ……」
行商人が届けてくれたのだが、村の状態を把握していたのか高い値段で水を売っていた。
商売だから仕方ないのかもしれないが、買うには厳しいので諦めた。
「悪いな。買うにしては高すぎて手が出せない」
「わかっているよ。我慢するから大丈夫」
イコには悪いが諦めてもらおう。
左隣の家には水がたくさんあるらしい。
「アルが勇者のパーティにいるから懇意にしてもらおうってことだろう」
「村は次いでってわけだね。ああ、忌々しいよ」
同意ではあるがアルがいなかったら行商人が来なかったかもしれないので何とも言えないわけだ。
来ても来なくても変わらないよな気がするけど。
「そのアルから手紙がきた」
「いい紙を使っているね。ホントに忌々しい」
書いてあることが脳天気すぎる。
俺を煽っているに違いない。
「内容は惚気話とモテモテ勇者にホレたライバルたちとの争いの話だ」
「ゴミだね」
もったいないゴミだ。
どうにかして汚れを消せないだろうか。
「しかし、勇者も凄いよな 別の世界ってやつから呼ばれて魔王を倒すって凄くね?」
「見ず知らずの国のために命がけってお人よしを軽く超えてるよね」
国がヤバいんで助けてくださいっていきなり呼ばれて助けるってどんな精神しているのだろうか。
隣村ですら急だったら断る俺にはわからない。
「ああ、でもモテモテでいいモノ食って何しても自由なんだっけ」
「そんな感じの特権もあるけど国の財産だから命令が下ったら従う必要があるね。命令は兵器としての役割がほとんど」
一時の贅沢のために命差し出すのは無理だな。
憎いけど勇者すげえな。
「その勇者に命を狙われる魔王ってどんなやつだろうな。どこにいるかすら知らないんだけど」
「魔王なんて理由付けのためにいるようなものだからね」
隣の国で欲しいモノがあったら勇者を送り込んで魔王討伐のためって名義で占拠することもあるとか。
ああ、だから勇者を召喚するのか。
「かなり醜い理由だったな、魔王討伐。大義名分ってやつだろ」
「うん、権力を得ると魔王の便利さがわかるらしいけどね」
一生俺には縁のない話だろう。
権力云々の前に水がない。「魔王でもいいから水をくれって感じだな」
「貴族が聞いたら縛り首にされるよ」
貴族なんて見たことないから畏れようがない。魔王討伐よりも水くれ。
「居もしない魔王を討伐って勇者が滑稽だな」
「一応いるよ。今は迷宮の最下層で眠っているけど」
魔王はいるらしい。
勇者に追われているのに眠っているとか余裕過ぎだろ。
「そのまま勇者も迷宮に突撃してくれればいいのにな」
「勇者には知らされてなかったり、国も知らなかったりといろいろあるんだろうね。虱潰しに探しているって感じだし」
なぜイコが魔王の居場所を知っているかが気になるが俺には関係ないから聞かないでおく。
魔王を追っているのに国の利権のために働くって勇者も嫌な職だな。
「勇者もわざわざ魔王を追わずに自由にすればいいのに。それくらい余裕だろ」
「魔王を倒すと元の世界に帰る事ができるって言われてるからね。従うでしょ」
なかなか国もやることがあくどい。
まあ、許さないけど。
「勇者も世知辛いな」
「何にでも良いとこと悪いとこがあるもんだよ」
じゃあ、今のこの生活にもいいところがあるのか。
……平和なことくらいか。
「でも悪いところの方が多いな」
「良いところはボクと一緒にいられることって言って欲しかったな」
さすが恥ずかしいやつだ。
にこにこしながら言うとは反則である。
「それはどんなことをしていてもだろ。今の生活に限った良さじゃない」
「ああ、そっか」
暑さでへばっていたクセに今は上機嫌で尻尾を揺らしている。
恥ずかしいけど可愛いやつである。
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