第3話

 燦々と輝く太陽。罅割れた大地。

 乾燥した空気。


「雨が降らんな」


「そうだね。さすがのボクも困っちゃうね」


 銀色の綺麗な毛並みのイコだが、日の光を反射して眩しい。

 弱々しくへばっているのは暑さに苦手だからだ。


「このままだと薬草も枯れてしまう」


「大変だね」


 そう、大変なのだ。

 だからといって解決策があるわけでもない。


「井戸も余裕がないだろうに」


「そうだね。ここ最近、ずっと晴れてるもんね」


 困ったものだ。

 いつもならこの時期は降るはずなのだが。


「魔法で雨を降らせたりできないのか」


「そんな魔法は使えないよ。燃やすなら簡単だけど。カラカラだからよく燃えるよ」


 イコは魔法が使える。

 火系統しか使えないのが玉に瑕だろうか。


「魔法も万能じゃないな」


「人間だと学問の一種として捉えているし、簡単なものではないんだよ」


 魔法なんてよくわからんが、一筋縄ではいかないらしい。

 勇者とか魔人などは魔力に物を言わせて結果を呼び寄せるとかできるらしい。


「魔法に夢を見るのはやめるか」


「夢は叶わないからね」


 どうやら現実は厳しいようだ。

 俺からしたら魔法が現実的ってよくわからんが。


「このまま雨が降らなかったら今年の税が払えなくなるぞ」


「人間は大変なんだね」


 フォックステイルのお嬢さんには関係ないのだろうか。

 いや、俺の家族なんだから関係あるに決まっています。


「余裕ぶっこいているイコは気付いてないだろうが、極論としてご飯がまずくなる」


「大問題じゃないか」


 危機に気付いたイコは顔色を変えるも暑さにへばって結局横になったままである。

 獣型は毛皮により体温上昇、人型になっても耳と尻尾が暑いというどっちつかず。


「雨が降ればかなり助かるんだが」


「何か燃やして煙で雲を作るとか聞いたよ」


 父に聞いたのだろう。

 この澄み渡った青空の下では効果無しに違いないので却下。


「どうしたものか」


「どうしようね」


 村人がまた減った。

 中央のようにここよりも条件のいい場所を探しに出たのだろう。


「ほぼ全員が死ぬだろうな」


「魔物がいる森を抜けるのは大変だからね。新天地探しというよりは死地を求めている様にしか思えないよ」


 力のないモノに世界は優しくないのだ。

 希望もなく死ぬのだろう。


「村から出て死んだら俺には関係ないからいいけどな」


「君は村に縛られてるだけだもんね。ここは安全なのに出ていくのはなんでだろう」


 ただの村人だった人間が外に出たら魔物に襲われて終わりである。

 ここら辺の魔物のランクは知らないが、襲われたら絶望的なのは間違いない。


「夢みてるんだろ。しかし雨が降らんな」


「夢って凄いね。ホントに雨が降らないね。ボクもそろそろ限界だよ」


 垂れた尻尾がイコの限界を知らせてくれる。

 情けなさも漂ってくる。


「ああ、そういえば隣村も被害が大きいらしい」


「だろうね」


 暑さにへばったイコを抱えて家に戻る。

 こんなでも俺の可愛い家族だからだ。


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