第2話

 晴れた空の下、今日も畑仕事。

 変わらないからこそ、日常なのである。


「マグから手紙が届いたぞ」


 俺の右手には古ぼけた紙切れ。

 友人であるマグからの手紙である。


「へえ、それは良かったね」


 イコは今日も丸くなっている。

 ふわふわの尻尾を触りたくなるが我慢する。


「冒険者になったから迷宮に挑戦している、だってよ」


「順調なことはいいことさ」


 迷宮(ダンジョン)には危険と宝が眠っている。

 出入り口を国が管理し、探索は冒険者や騎士が行っているとか。

 

「一攫千金か 夢のような話だな」


「夢は叶わないのさ」


 夢は見るモノってことだろう。

 俺のギフトが探索向けだったらどうなっていただろうか。


「アルからも手紙がきてた」


「あまり良い予感がしないね」


 白い上質紙に真っ黒のインク。

 手紙だって無料ではないのだが、勇者の余裕が見て取れる。

「要約すると『勇者カッコいいけどモテる。結婚したい』だってよ」


「なんというか、アルって頭がおかしいよね」


 否定はしない。

 結婚の約束をしてきたときは畑の真ん中だったし。

 

「お金に余裕がないから返事を書けないけどな」


「村人の限界だね」


 マグですら手紙を書く余裕があるというのに。

 ファーストジョブが村人は伊達じゃない。


「今日も汗水たらして働いて、薬草を栽培しても税として持って行かれて、売っても二束三文」


「世知辛いね」

 

 魔物に襲われても、盗賊に襲われても、戦争があって兵士に略奪されても運が悪かったとして諦める。

 村人が成り上がるには奇跡が起きなければならないのだ。


「何事も努力すれば成せるわけでも無し」


「現状打破のために冒険者になるのも間違いではないけどね」


 ギフトで上級の冒険者になれるかもしれないし、偶然組んだ仲間が凄く強くなるかもしれないし、奇跡が起きてなんらかで成功するかもしれないし。

 冒険者も多分に運が絡んでいるモノだ。


「富、名声、権力。縁遠すぎてなんだかわからん」

「村を離れて一緒に行けばよかったじゃないか。誘われていただろう?」


 イコの揺れる尻尾を見つめながら思い出す。

 行商人とともに村を出たマグに一度だけ誘われたが断ったことを。


「俺が村を出るわけないだろう」


「そうだね。滅ぶ結果は目に見えているよ」


 祖父に頼まれた。

 父と母に頼まれた。


「出て行かないのは俺の意思だ」


「でも羨ましいんでしょ」


 村人がいなくなるまで。

 村の皆を見守るように。


「羨ましいのは本当だ」


「なら行けばよかったのに」


 祖父との約束。

 父と母との約束。


「これだけは破るわけにはいかない」


「……」


 だから俺はここにいる。

 約束を守るために。


「イコは好きにしていいんだが」


「好きにしてるからいるんだよ」


 ああ、こいつは恥ずかしいやつだったんだ。

 顔が赤くなったのを隠すためにそっぽを向く。


「……ならいいけどな」


「うん、いいんだよ」


 笑い声が聞こえる。

 ホントに恥ずかしいやつである。


「まあ、実際についていっても野垂れ死ぬだけだしな」


「カッコ悪いね」


 自分でも承知しているが改めて言われたくはないのだ。

 うるさいやつである。

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