第5話 月と春

 気が付けば辺りは真っ暗になっていた。

もう夜になってしまった。大体6時くらいだろうか。

怖くて逃げた。

ひょっとしたらこの世界から自分だけが取り残されたのだろうか、いなくなってしまったのだろうか。そんな風に考えていた。


コンクリのでこぼこでズタズタになってしまった足を見て焦り混じりため息をついた。

ひとりぼっちが辛い、痛い、悲しい。

ありふれた言葉ばかりが頭によぎる。


いつの間にか歩くのをやめ、蹲っていた。

すると前から、暗い先の夜道からペタペタと足音が聞こえてきた。

幻聴と思いたかったがどんどんと音が近づいてくる。

逃げる体力も無かった、ただ震えて呼吸を荒らげた。


そこにいたのは、姉ちゃんだった。

俺と同じ、裸足でここまで逃げてきたのだろうか、追い掛けて来たのだろうか。

そんな事どうでも良くなるくらいに安心した。一気に表情が緩み涙が零れ落ちた。


春姉ちゃんが俺の手を握って言った。


『帰ろう。』



蝉の代りに月が煩わしいくらいに眩しかった。

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空白の世界 くりおね。 @Kuryone39

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