第15話

亮平は日に日に大きくなるお腹を抱え、通常の服ではピッタリすぎて動きにくい状態になってしまった。男性のマタニティーウェアは一般的ではなく、市場に出回っている製品も少ない。そのため、亮平は自分の体に合わせて服を選ぶのに苦労した。


"なんで男性用のマタニティーウェアなんてないんだろう..."、亮平は試着室で鏡に向かって言った。そのあと そりゃそっか と独り言……


"亮平、どうしたの?"早苗が声をかける。彼女も妊娠している女性たちが苦労していることを理解していた。


"このお腹で、一般の服が全然合わないんだ。男性用のマタニティーウェアなんて売ってないし..."


早苗は考え込み、"それなら、自分で作ってみる?"と提案した。


"自分で...?"亮平は驚いた。


"うん、お母さんが縫製が得意だったから、少しは教わったことあるよ。亮平のサイズに合わせて、一緒に作ってみようよ。"


それから、ふたりで素材を選んだり、デザインを考えたりして、自分たちだけのオリジナルマタニティーウェアを作り始めることにした。


早苗は膨らみゆく亮平のお腹を見て、採寸した。何度も亮平のお腹を測り、型紙を調整し、生地を切った。そして、何度も縫い、ほどき、また縫い直すという作業を繰り返した。


やがて一週間後、早苗が手作りのマタニティーウェアを完成させた。それは、亮平の体形にぴったりと合うように作られ、楽に動けるようなデザインで、お腹部分にはたっぷりとスペースを取っていた。


"亮平、試着してみて。"早苗はニッコリと笑いながら言った。


亮平は少し緊張しながらもその服を試着した。そのときの亮平の顔は、救われた人のような安堵の表情と、新しいステージへの期待と不安が混ざった複雑な感情を浮かべていた。


"うん、ちょうどいいよ。ずいぶん楽になった。"亮平は満足げに鏡に映る自分の姿を見つめた。彼のお腹は、その服に包まれていて、その中には彼と早苗の赤ちゃんがいるという現実がより一層実感として湧き上がってきた。


亮平はそのマタニティーウェアを着ると、一転して自信に満ちた姿になった。腹部分に広がるたっぷりとしたスペースは、彼のお腹の大きさを隠すどころか強調し、彼が妊娠している事実を際立たせていた。


その服を身に纏うことで、彼の歩き方もまた変わった。以前は妊娠による体の変化に慣れず、不安定な足取りだった彼だが、早苗の作った服のおかげで楽に歩けるようになり、姿勢も自然になった。彼の顔つきも明るく、胸を張って歩くその姿は、誇らしげであり、どこか堂々としていた。


そして何より、亮平の目には新しい生命を宿している喜びと期待、そしてそれに伴う責任感が強く燃えていた。その目は、これから自分が経験するであろう出産という大きな壁に向けての強い意志を感じさせた。


しかし同時に、亮平の心境の変化は微妙な表情にも現れていた。彼は、自分のお腹が大きくなるたびに、自分が父親になるという現実を深く理解していくようだった。そしてそのことが、彼の内面に新たな自我を育てていくことを予感させていた。


亮平のこの姿は、彼が新たな生命を産むという大きな挑戦に立ち向かい、それを受け入れ、さらにはその現実を誇りに思っていることを示していた。そのことが、彼の骨格に力を与え、彼の姿勢を引き立てていた。


早苗は亮平のその姿を見て、安心したように微笑んだ。それは、亮平の大きなお腹を隠すことではなく、その存在を誇らしげに示すための服だった。その服を着て、亮平はまるで自分自身を再確認したように見えた。


その後、亮平はその服を着て外出し、周りの人々の反応も肯定的だった。その経験を通じて、亮平は自分が男性であることと、赤ちゃんを妊娠していることの両方を受け入れ、誇りに思うようになった。

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