第13話

亮平と早苗は夕食後、静かなリビングルームで向かい合わせて座った。


"早苗、社長と話したんだけど、" 亮平は慎重に言葉を選びながら話し始める。 "育児休暇を取ると、出世のチャンスや今のプロジェクトは全て他の人の手に渡ることになると言われたよ。"


早苗はしばらく沈黙し、その後ゆっくりと "亮平、それは大変な決断を迫られるね。でも、今は私たちの赤ちゃんが最優先なんじゃないかな。" と静かに答える。


"うん、それは分かっているんだ。でも、自分のキャリアを全て放棄することになるかもしれない...それが怖いんだよ。" 亮平は率直に自分の不安を打ち明ける。


早苗は少し考えた後、ゆっくりと言葉を紡ぐ。 "私たちが決めたのは、あなたがキャリアを捨てることではなくて、今、この瞬間に何が一番大切かを選ぶことよ。将来のことは、将来考えればいい。今、私たちができることを一生懸命やろうよ。"


"でも君はいいよな、" 亮平は苦しみに満ちた声で言う。"でも僕がなんでこうなったのか考えてみてよ。"


彼の言葉に、早苗の表情は驚きと傷つきに満ちていた。彼女は亮平を見つめ、ゆっくりと涙が頬を伝い始める。言葉を発することなく、彼女はゆっくりと立ち上がり、部屋を去って行った。残された亮平は、言葉を後悔しつつも、何を言えばいいのかわからずただ黙って座っていた。

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