第9話
「タツノオトシゴのおへそ」の不思議な仕組みによって、亮平のおへその中には新たな生命がすっぽりと収まってしまった。亮平は自身のおへそをゆっくりと見下ろし、驚きと興奮が入り交じった表情を浮かべた。
そのあと、亮平のおへそは確かに固く閉まった。そして、へその中にある育児嚢がゆっくりと膨らんでいくのが感じられた。それは、まるで軟らかな布に暖かい湯がゆっくりと注がれていくような、心地よい感触だった。
そして、へその中の育児嚢は少しずつ羊水で満たされていった。それはまるで、新たな母親のお腹の中で、新生児が育つための環境が整えられていくような感じだった。
亮平は自分のお腹を見つめながら、早苗に向かって優しく微笑んだ。「ほら、僕たちの子供、ちゃんと元気だよ。」そして、その瞬間から亮平は、自分が父親として、そして"母親"としての新たな役割を始めることになったのだった。
病院のベッドから起き上がり、早苗は亮平の腕にしっかりと寄りかかった。亮平の顔には、赤ちゃんを抱える新たな「お腹の母」の役割に対する不安と期待が混ざり合っていた。
「大丈夫だよ、亮平。」早苗は彼の手を握り、心からの笑顔を向けた。「私たちが一緒にいれば何でも乗り越えられるから。」
亮平は笑顔を返しつつ、一瞬、お腹のほうに目を落とし、中にいる小さな生命を感じた。優しくお腹を撫でると、中から微かな反応があった。これが彼の「娘」または「息子」だという現実に、胸がいっぱいになった。
彼らは病院の入口へと進み、太陽の光が明るく照らす中、手をつなぎながら退院していった。自宅で新たな家族としての生活が始まる。それは未知なる挑戦だったが、早苗と亮平は互いを信じ、全力でその挑戦を受け入れていく覚悟だった。
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