第8話

手術室では、医師たちが緊張した顔をして、早苗の帝王切開を進めていた。一方、亮平は立ち会いの席から、早苗の手を握りしめながら、待ちわびるような顔をしていた。


「亮平...」早苗が静かに声を上げると、亮平は彼女を見つめて「大丈夫だよ、早苗。」と励ました。


手術が始まり、遂に早苗のお腹から小さな赤ちゃんが取り出された。その瞬間、手術室は一瞬の静寂に包まれ、その後すぐに赤ちゃんの小さな姿が現れた。その姿に、亮平は涙を流した。なんて小さいんだ……


一切の言葉がいらない静寂の中、新生児室の閉ざされたドアがゆっくりと開いた。医師の手に抱かれ、小さな袋に包まれた新生児が運ばれてきた。その小ささ、脆弱さは周囲の全てを震えさせ、深い感情の波を巻き起こした。


医師はゆっくりと亮平の側へ近づき、そっと赤ちゃんを亮平の育児嚢へと移した。そして、小さな命はすぐに亮平の待つ「タツノオトシゴのおへそ」へと移される。育児嚢がゆっくりと開き、赤ちゃんはそこへと滑り込んだ。


育児嚢はあたかも新しい母親の子宮のように、赤ちゃんを包み込んだ。赤ちゃんの細い指が育児嚢の内壁にぶつかり、優しく揺れる。その瞬間、育児嚢は暖かくなり、赤ちゃんを優しく包み込んだ。


亮平は自分のへその中に入っていく赤ちゃんを見つめ、深い感動と共に、この新たな命の始まりを見守った。育児嚢は自動的に赤ちゃんの体温を測り、それに合わせて温度を調節した。そして、赤ちゃんの体を優しく包み込むように、育児嚢の内壁は柔らかく膨らんだ。


この新たな命を宿した亮平のおへそは、それまでの普通のおへそから、新たな命を育むための場所へと変わった。この小さな赤ちゃんが無事に育つことを祈りながら、亮平は自分の育児嚢に手を当て、その小さな命の脈拍を感じた。その感触は、亮平にとって、これまで感じたことのない新たな喜びと希望を与えた。


そして、育児嚢が閉じるとともに、亮平のお腹には新たな生命が宿るようになった。


亮平は自分のお腹を見つめ、早苗に微笑みかけた。「大丈夫、早苗。僕たちの子は元気だよ。」

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