第10話

亮平の生活は思わぬ形で変化し始めた。朝、起きると妙な酔いつぶれたような感覚に襲われるようになり、まるで乗り物酔いをしたかのようなめまいが頻発した。それは昼になると何とか治まるが、香ばしいコーヒーの香りや、揚げ物の匂いに吐き気を感じるようになった。それはまさしく、妊娠初期によく見られる「つわり」の症状だった。


「亮平、大丈夫?」と心配そうな早苗の声に、亮平はぼんやりとした目で頷いた。「うん、大丈夫だよ、ただ、これがつわりってやつなのか…」


彼は心の中で新たな敬意を早苗と、それまで自分が知らなかった無数の母親たちに対して感じる。それは彼自身が経験することで初めて理解できる感情だった。胸の中には、これからも母親たちが経験してきたであろう数々の困難に立ち向かっていく覚悟が、しっかりと芽生えていた。

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