第53話『リーガルリリー、次なる一手』

第53話その1

『皆さん、お久しぶり。月坂つきさかハルカです』


 唐突に画面に出てきたのは、月坂ハルカだった。ビジュアルはテレビアニメ版の方である。


 ガーディアンの制服などではなく、私服姿なので困惑する視聴者もいるだろうか。この場合は読者、なのかもしれないが。


『今回からは一足先に配信が行われている実写特撮版であるアバターシノビブレイカー……そちらの動画を追っていくような話になります』


『いきなり実写版と言われても、困惑する人もいますので、ざっくりと状況説明だけでもしておきますね』


 そして、ハルカが用意したもの、それは3つのタイトルと1つの項目が書かれたフリップだった。


【全ての原案となったプロット】


【WEB小説サイト掲載の対電忍】


【実写特撮版対電忍】


【テレビアニメ版対電忍】


 上からプロット、WEB小説サイト、実写特撮版、テレビアニメ版と記載されている。


 一体、何を説明する気なのか?


『覚えていますか? いつぞやの春日野かすがのタロウが「いい最終回だった」と言っていたシーン。それが、実は2番目の小説版です』


『全ては一番上の一連のノンフィクション的な事件……それをまとめたものが、例のプロットで、そこから派生して小説版、実写版、アニメ版と作られていきました』


 最初にフリップの2番目を指さし、次には3番目と4番目……と言う順序で指さしていく。


 ある意味でも身振り手振りでフリップを使い、解説を続けているのだ。


『スケジュール的には、小説版も全12章とは言いつつも色々と調整されているようで、どうなっているのかは謎ですね。「いい最終回だった」がどれを指すのかも不明ですし』


『テレビアニメ版は10月に別番組が放送開始し、次のシーズンは来年1月……その間は特撮版の対電忍を追っていこう、と言うのが今回からの話になります』

 

 説明しているハルカも、何のことだかさっぱりな状態である。


 ゲシュタルト崩壊とまではいかないが、そんな感じではあるのだろう。


『話の内容としては、アニメ版と特撮版では主要登場人物は同じですが、アニメ版ではアニメオリジナルキャラが混ざってます』


『具体的に言うと、ガーディアン秋葉原本部長のガンライコウ、ガーディアン大宮支部長、ガーディアンの北千住支部長の初代……位でしょうか』


『……えっ? ガンライコウってアニメオリジナルキャラだったんですか。てっきり、向こうにもいるものかと』


 ハルカの方も自信がなくなっていく。ある意味でも画面外にレインボーローズがいれば……とは思うが、いそうにない。


 北千住支部の初代支部長はレトロゲームショップの店長だったが、ショップの店長はそのままで、支部長は兼任していなかったらしい。


 最初から、実写ではパフィオペディルムだったのだ。


『とにかく、話のメイン軸はアニメ、実写と共に同じです。違うのは、細部の細かい部分。忍者構文とか、その辺り……だけかな。ちょっと自信ない』


 ハルカまで、もはやキャラ崩壊寸前で説明放棄しそうな気配もした。


 しかし、対電忍は色々と起こりすぎて、説明をちゃんとできる保証もないのである。


『それでは、引き続き本編の方をご覧ください。以上、月坂ハルカでした』


 そして、実写特撮版が始まろうとしていたのである。



『遂にダンジョンしんは倒された』


『しかし、これで平和が訪れる……わけではない』


『倒れたダンジョン神に代わろうと、ニューダンジョン神と名乗る人物が姿を見せる』


 本編開始時に流れる映像は、実写版ではあるのだが……どう考えても、話の流れ的にはアニメ版の続きにも見えなくもないだろう。


 ナレーションはガーディアン秋葉原本部の本部長である男性、アニメ版では影武者だった男性特撮俳優だった。


 それに加えて、下のテロップにも『本作はフィクションですが、忍者構文は実在します』という注釈がある。


 ビジュアル面もアニメ版の方に忠実と言うか、むしろアニメ版の方が特撮版を参考にしている可能性があるほどだろう。


 場所の方は西新井のARパルクールフィールドでアニメ版と同じなのだが、実写版だとそのままの場所があるので、親近感があるかもしれない。


 アニメ版だと諸事情で看板がそのままのものを使えない……と言う事情もあるのだが。


『しかし、ニューダンジョン神は思わぬフラグを踏み抜いてしまい、即座退場という事となった。因果応報とはよく言ったものだが……』


『正体の方も、いわゆる承認欲求欲しさに1000万フォロワーを持つとされるアネモネのなりすまし……偽物という事だね』


『ニューダンジョン神はガーディアンに拘束され、これで事件は解決と思われたが、肝心なことが終わっていなかった』


『そう、ARパルクールでデンドロビウムと対戦する相手だ』


 ここまで本編画像が流れ、次のシーンへ行くのだが……アニメ版と遜色ないようなシーンの数々である。


 実際、実写版がプロジェクトとしては先で、実写版の方が先に配信されていたのだが……有料サイト限定なので、視聴手段が限られていた。


 その後にテレビアニメ版が始動し、現在に至っている。7月から9月まで放送され、新シリーズは来年1月を予定しているらしい。


『さて、どう動くべきかな』


 ここで、彼のナレーションにおける決め台詞が流れ、そのまま本編が始まった。


 始まったといってもアバンパートだが。



【9月18日】


 日付は18日のままで動かない。


 アニメ版の方では、18日のARパルクールが省かれており、そこから20日になっていたのだが。


 場所の方も西新井のARパルクールフィールドであり、ギャラリーも他のレースへ向かった人物もいる一方で、残っている人もいた。


 ニューダンジョン神のガジェットも、すでにガーディアンが撤収済みなので……懸念材料は、もしかすると一つだけだろうか?



「これでシェアリング炎上がなくなれば……」


 ガーディアン池袋支部支部長でもあるデンドロビウムはつぶやく。それに反応する人物はいない。


 しかし、彼女は肝心なことを忘れている。ARパルクールの相手だった。


 周囲のギャラリーを見ても、立候補するような人物はいそうにない。それに加えて、他のレースも始まる所だ。


 上空には撮影用ドローンが飛んでいるが、こちらはニューダンジョン神を名乗っていた人物のものではなく、ARパルクールの中継用ドローンの方だろう。


 それが上空に待機しているという事は、ここでARパルクールが行われるのは確定の様子。


 キャンセル申請も行っていないらしく、どうするべきかデンドロビウムは悩む。


 周囲を見まわすデンドロビウムだったが、その数秒後には、まさかの人物が姿を見せた。


「ARパルクール、私が走る!」


 その声を聞いたデンドロビウムは、声のした方を振り向き……。



『対電忍、それはありとあらゆる炎上を阻止するために存在する、究極の切り札』


『彼らの存在がSNS炎上を阻止し、今のネット環境があるものだと、誰もが錯覚した中で、事件は起きた』


『SNS炎上阻止を目的として動く忍者と、承認欲求などのために炎上を行う勢力との対決を描いた……物語』


『それが、アバターシノビブレイカー……後に対電忍として語られる都市伝説、もしくは忍者構文である』


 このナレーションも冒頭と同じく秋葉原本部長によるものだ。


 ある意味でも、実写版では本領発揮と言うべきか?


 そして、オープニング流れ出した。


 演出などは実写版とアニメ版では違う個所もあるだろう。


 オープニングにおけるクレジットの流れも、最初は原作で、次に表示されるのは脚本担当……アニメ版とは違う。


 その後に音楽担当もクレジットされるが、こちらはアニメ版と同じ人が連名で担当していた。


 サントラと言う意味では共通なのだろう。


 あとは……主題歌がアニメ版と異なる位か。まさかの展開と言えるが、同じと言うのもレアケースだろう。

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