第52話その3


【9月20日】


 後半パートは、何と2日経過した9月20日の表示となっていた。これは、どういう意味なのか?



 天気は晴天、その中でとあるニュースが草加駅の大型ビジョンに映し出されている。左上の時計は午前8時を示していた。


『先ほど、複数のインフルエンサーが逮捕された事件で、警察は一連の青凪を名乗る人物による事件が、彼らによる自作自演だったと発表いたしました』


『複数の事件が承認欲求欲しさに拗らせた暴走であるという事も含め、警察では引き続き調査をしているとのことです』


 青凪あおなぎを騙り、SNSを炎上させようとしていた勢力、その正体は一部の承認欲求が欲しいと思ったインフルエンサーの集団だった。


 これによって特定のコンテンツが炎上し、それこそシェアリング炎上の土台となったに違いない。


 ただし、承認欲求を求め、暴走したインフルエンサーがいたのは事実だが、実際に彼らが一連の忍者構文事件を起こしたわけではない。


 忍者構文を巡る事件は、あまりにも犯人の正体が飛躍しすぎており、その思考に追いつかない事を恐れた一部勢力により、インフルエンサーの暴走と言うカバーストーリーに変えられた。


 このニュースに関しても、足を止めてみているギャラリーはほとんどいないし、このニュースが流れることを望んでいなかった人物たちもいる。


 実際、該当するインフルエンサーをフォローしていた人たちが悲しみ、時には怒りを見せ、復讐するは……と考えるような人物もいたかもしれない。


 その一方で、そのようなことをしても意味がないことは、このニュースを見ていた人物の誰もが思った。



『次のニュースです。先ほど、出版大手の○○社が秋葉原のイベント関係を運営している会社と合併し、消滅するというニュースが入りました』


 このニュースには、複数の通行人も足を止める。それ位に衝撃なのだろう。出版社のひとつが消滅するというのは……それほどの規模なのかもしれない。


 このニュースを読み上げているのは、いわゆるAIによる自動音声だ。


 男性のニュースキャスターをベースとしたアバターが読み上げているのだが、それにさえ違和感を持たないのがここのギャラリーともいえるだろう。


『この出版社は、週刊○○で有名であり、いわゆる○○砲が流行語にノミネートされることもあった会社で、様々な問題も抱えていました』


『裁判自体は19日に行われ、即日にスピード結審したことはSNS上でも話題となりましたが……』


『そこで、一連のVTuber炎上事件の賠償金1000兆円が確定したことで……』


 VTuber炎上事件とは、ガーディアン草加支部に所属しているあのVTuberが企業VTuberとして所属している会社が炎上した事だ。


 被害を受けたのは彼女ではないのだが……事務所の同僚としては黙って見過ごせるものではなかったのだろう。


 そして、一連のデータをハッキングで入手したところ、週刊誌に掲載予定だった情報のソースがまとめサイト、それもフェイクニュースで炎上させることで話題なスパムサイトだったことが明らかになった。


 まさか、スパムサイトのニュースを本気で信じ込ませ、炎上に追い込んで会社の存在を消そうとでもしたのだろうか?


 この炎上には青凪と騙るインフルエンサーが絡んでいたのだが、これに対し○○社は別の芸能事務所のファンが炎上させたと明らかに炎上を仕掛けようとするようなフェイクニュースを参考にしたような記事を書き、掲載しようとしていたのである。


 炎上事件があったのは、19日の出来事なので、ある意味でもスピード決着と言えるのだが……そのやり方は、いかにもガーディアンらしいやり方と言えるだろうか?


 ガーディアンらしいと言えば、彼ららしいやり方ではある。


 この記事を見てショックのあまりに闇堕ちして炎上勢力を増やし、二次災害を生み出すよりは、この選択が正しかった、とガーディアンは判断したのだろう。



「この世界には悪と言う存在は、存在するべきではない。せいぜい、フィクションだけの世界でしか存在できないものなのだから」


 ARマントを装備して、周囲に気づかれることなく一連のニュースを見ていたのは、ガーディアン池袋支部の支部長であるデンドロビウムだった。


 彼女の視線は、ニュースが終わった後には、草加駅に向けられている。


 その理由は、何故なのか……。


「彼らは、コンテンツを炎上させようとする存在を許さない。それは、悪と認識されたものすべてを」


 そして、デンドロビウムは草加駅の方へと向かい、そのまま人ごみの中に消えていった。



 ここで、スタッフ及びキャストクレジットが始まった。しかも、流れているBGMは対電忍の主題歌である。


 まさかのオープニングテーマが、このタイミングで流れるとは……誰もが驚くだろう。


 しかし、テレビアニメの手法としては間違っていない。なぜなら、対電忍のテレビアニメは今回が最終回だからだ。


 次のシーンでは、草加駅のホームに現れたアンチ勢力の構成員と思われる人物が、武器を片手に周囲の人物に対して攻撃を行う。


 ただし、持っている武器に殺傷能力は一切ない。繰り返す、持っているのはARウェポンであり、殺傷能力はない。


『電車の方は連絡して一時的に止めてもらった。下手にアンチ勢力が暴れていては、通勤客にも迷惑だろう』


 インカムから聞こえるのは春日野かすがのタロウの声である。それを聞いていた人物、それは……。


「まさか、リアルで忍者と共闘するなんて展開、あるとは思わなかったけど」


 ARハンドライフルを片手に持っているのは、レインボーローズである。彼女としては、この状況を驚いてみるしかなかったのだが。


『それはこっちのセリフでもあるのですが。これも忍者なのは言いっこなしですよ』


 蒼影そうえいで駅の外にいるロボットを次々と機能停止に追い込んでいるのは、月坂つきさかハルカである。


 アクションは無人の時とは異なるが、それでも的確に動きを止めていく。コクピットを狙うような行為は、ARゲームでは禁止されているのだが……。


「それは言えているけどね。でも……リアルの忍者とフィクションの忍者が組むなんて、そうそうないんじゃないの?」


 レインボーローズの視線は、彼女のいるホームとは別のホームで炎上勢力相手に格闘術を披露する祈羽おりはねフウマに向けられていた。


「まさか、噂に聞くブラックバッカラ事件の英雄の二人だけでなく、忍者構文の忍者、蒼影とともに戦うとは……」


 蒼影に乗っているのがハルカであることは、フウマも把握はしている。そのうえで、この発言なのだ。


 彼もまた、祈羽一族の復活と言う目的のために、炎上勢力を討伐することになり、その手始めにレインボーローズたちに協力している。


 全ては、この世から悪を根絶するため。


 それこそ、悪はフィクションの存在であって、ノンフィクションでは存在すら許されない。


 一部業種や勉強などのケース以外では、口にすれば対電忍が現れて秒で討伐していく……それ位の位置になることを望んでいた。


『忍者とはありとあらゆる炎上を阻止するために存在する、対電脳の刀。忍者とは悪意ある闇の全てを斬る存在でなければならない。彼らが斬るのはあくまでも悪意ある炎上であり、それ以外のものを切り捨ててはならない』


 三人のバトルシーンが流れている状態でスタッフクレジットは続くし、ナレーションも流れる。


 このナレーションを読み上げているのは、まさかともいえる雪華ゆきはなツバキだった。


『忍者が存在するのは、電脳空間にあるダンジョンと呼ばれる場所。今は、様々な場所でダンジョン配信者がダンジョン配信で利益を上げる時代になっていた』


『それでも、悪意ある炎上者によってコンテンツの存在が危うくなることもあるだろう』


 次のシーンではVRダンジョンに切り替わり、そこではツバキとツバキの乗るロボットが映し出されていた。


 その隣には、SDフォームの飛天雷皇忍将軍ひてんらいおうしのびしょうぐんの姿もある。


 こちらの方も炎上勢力、もしくはアンチ勢力と戦っていた。理由はどうあれ、彼らによってコンテンツ炎上があっては、全てが終わってしまうだろう。


 彼らの行為は正義ではない。単純に言えば、悪である。


 SNS炎上=悪と言う認識がさらに強くなり、それこそ炎上行為をすれば対電忍が現れ、秒で悪事を阻止していく……・


『彼らは、ある意味でもマッチポンプを起こそうとしていた存在を撃破するのだが、それでも戦いは終わらないだろう』


『SNS炎上を根絶するためには、それこそ炎上の事例をベースとして学校で教えていくことも必要だし、そのためには様々な媒体を使うかもしれない』


 ナレーションが途中から切り替わり、ここのパートは草加支部支部長であるアルストロメリアが読み上げていた。


『ガーディアンが絶対正義と言うわけではないだろう。この辺も認識の食い違いで、炎上することはあるかもしれない。その証拠が、炎上系配信者が潜り込んだ事件だからだ』


『様々な事例を学習し、AIは炎上系コンテンツを排除していく……と言う時代も、あるかもしれないが、今すぐはないと思う』


 そして、次のシーンではアルストロメリアが草加支部内で……スマホの着ぐるみを発見する。


 のんびりしているように見えるが……?



「ガンライコウ、そろそろ話してくれないか。忍者構文の真実を」


 スマホの着ぐるみに対して、ガンライコウと呼びかけるアルストロメリアだが……答える気配に見えない。


「忍者構文自体、ある意味でもシリーズ物のアニメや特撮などのテンプレと同様に、ある一定の法則があって、それに基づいて色々と動いていたのではないか?」


「そこから様々な食い違い、ゆがみなどが発生して話が変化していき、この展開になった。いわゆる脚本の都合とか顧客が求めていたものとか……そういう内輪ノリだろう」


 アルストロメリアはひたすら話していくが、それに着ぐるみが反応することはない。


 まだ反応しないという事は、答えにたどり着いていないのか……と彼女は思う。


「シノビ仮面、新宿支部支部長も一連のトリックを分かっていたからこそ、あえて一部個所を外して暴いた。違う?」


「その新宿支部長も特撮版のオリジナルキャストが友情出演のパターンだから……ねぇ?」


 ここまで話しても、動きはない。そういう事をしている間に、スタッフクレジットは、脚本担当と演出担当の二名を残すのみ。


 1話の担当者がそのまま担当しているので、そういう意味ではあるかもしれない。


 アルストロメリアとしては色々と悪戯をするかのように、こうしたことを言っているわけではないだろう。その表情は真剣だ。


 それこそ、炎上行為をするような人物を増やさないために、必要なことをガンライコウに聞きたい位。


『ガンライコウさんなら、すでに秋葉原本部に戻っていますけど』


 スマホの着ぐるみを脱ぎ、姿を見せたのは春日部支部長のホップだった。


 何故にホップがこのタイミングで? 本編では出番が今までなかったので、ここで登場と言う具合か?


「本部に戻った? どういうことなの?」


 そのアルストロメリアの問いに対し、ホップは思わぬ言葉を発する。


「彼女なら、別にやることがあるって……」


 そのホップの一言とともに、秋葉原本部へ戻ってきたガンライコウ。


 他のスタッフにも歓迎されつつも、その表情はいつものハイテンション気味なものではない。


 向かった場所は支部長室ではなく、バーチャル会議室だ。


 そこにあるパイプ椅子に座り、システムを起動させたガンライコウは、一言……。


「ガンライコウの花言葉には、気取り屋と言うのもあってね……」


 右手で指を鳴らした彼女、その次の瞬間に浮かび上がった電子アバターと思わしきもの……。


 アバターの外見に、視聴者は覚えがあるだろう。


「彼女のターンが来ないことを祈りたいがね……。アネモネ、お前はどう動く?」


 アバターの全身像はなく、上半身が出ると思われたシーンで暗転、ガンライコウの一言で本編は終わった。


 その中には『完』と言うような文字もなければ『次回へ続く』のようなものもない。


 いくつかの伏線は回収されつつも、未回収の物は来年1月放送予定の新シーズンへ持ち越されることになった。



 CM後のエンドカードは、今までのメインで登場したガーディアンの支部長とレインボーローズ、月坂ハルカ、雪華ツバキ、祈羽フウマである。


 ある意味でもオールスターと言えるかもしれないが、エンドカードのサイズの都合上で支部長と言っても全員いるわけではない。


 草加支部長アルストロメリア、春日部支部長ホップ、北千住支部長の2代目であるパフィオペディルム、池袋支部長のデンドロビウム、秋葉原本部長のガンライコウは確認できた。


 他にも様々な支部長がいるのだが、その中に足立支部のスタンバンカーはいない。フェードアウトでもなく、オールアップでもなく……この辺りで謎が残るのだろう。


 他にも登場人物がいるかもしれない一方で、一部の人物は描かれていない。これは、どういうことなのか?


 モブキャラ支部長や炎上勢力のなりすましは未登場なのは当然としても、大宮支部辺りは描写されているシーンもあった。


 その中で未登場な理由は、もしかすると……新シーズンで新支部長披露とともに再登場、という気配もするだろうか?


 バックの背景は秋葉原駅。まさか、この撮影のために規制線などを……と思うと、別の耳でも衝撃だが。



 エンドカード担当は対電忍のキャラクターデザイン担当者である。ここにきて、まさかの起用と言えるかもしれない。



【応援ありがとうございました】



 そして、次のCMが流れるであろうと思った瞬間、何かのノイズらしきものが画面に入り……。



 次の瞬間、画面に表示されているのは、9月18日のARパルクールのシーンであるのだが、ビジュアルに何か違いがあるかのような部分があった。


 本当に、このシーンはアニメ版なのか……と言う個所はあるだろう。もしかすると劇場版、もしくはOVAを疑う人もいるかもしれない。


 しかし、この画像の正体は対電忍の実写版である。


 これは、まさかのザッピングで割り込んできた実写版の次回予告だ。


 一体どういうことなのか? アニメ版は翌年1月に次シーズンと言うことは告知済みなのだが……。


『次回、アバターシノビブレイカー、対電忍は……』


 ナレーションが秋葉原本部の本部長の影武者……つまり、あの特撮俳優である。


 実写版なので、当然と言えば当然だろう。つまり、アニメ版にもゲスト出演していたことになるかもしれない。


【ARパルクールは、このまま中止なのか?】


【その中で、姿を見せたのは予想外の人物】


 映像では、一連のニューダンジョンしんを倒した後の場面が流れていた。


 実写ではあるのだが、シーンとしてはアニメ版と全く同じであり、原作に同じものを使っていないとできないようなシーンだろう。


 漫画原作などでもあるのだが、稀に出演するアイドルなどの事情で改変したりして炎上するようなケースは、現実でも存在する。


 しかし、対電忍はそれがないのだ。さすがに撮影不能なシーンはカットされるかもしれないが、それでも様々な手段を使って実現させようとしていた。


 その努力は感じ取れる映像なのは間違いない。


「ARパルクール、私が走る!」


 その時に姿を見せた足だけの人物それは……誰なのか?


【次回:『リーガルリリー、次なる一手』】


 次回のサブタイテロップは画面下の方にあり、まさかの展開となったといえるかもしれない。


 足だけの人物がリーガルリリーとは限らないが、誰なのかは次回判明なのだろう。


 メタ的に言えば、テレビアニメ版から実写版へ繋ぐ的なギミックが用意されていたのだ。


 テレビアニメ版は来年1月なので、それを待ちつつ実写版を追いかける……というギミックは、メタ演出の領域ともいえるだろうか?


 こちらのリーガルリリーは、以前にアニメ版のエンドカードであったように、ARメットで素顔を隠している。


 メットデザインはアニメ版と同じであり、そういった個所ではアニメ版と比較するという手法もありなのだろう。


【ARパルクールで走る、デンドロビウムの相手とは?】


【イレギュラーすぎる人物が、まさかの名乗りを上げる!】


 提供の上下にあるスペースでは、上に最初のテロップ、下には次の……と言う具合になっていた。


 果たして、リーガルリリーの次なる一手とは何なのだろうか?


 次回からは実写特撮版対電忍を追いかけていこう。

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