第6話その3

 草加市の某所、ARゲームエリアとは若干異なる場所で、その事件は起きていた。


 複数人の転売ヤーが暴徒化し、店に突入をしていたのである。さすがに破壊行為はしていないが、そこまでやると警察に逮捕されるのは確実だ。


 しかし、突入をしようとした一部の暴徒が、背後から何か音がするという事で外へ出てみると、そこにいたのは……。


「バカな、巨大ロボットだと?」


 全長は5メートル位と比較的に小型サイズではあるのだが、目の前に見えたのは巨大ロボットの足だった。


 既に数人の転売ヤーがガーディアンとは別のパワードスーツを装着した人物に取り押さえられている。


 その外見は、転売ヤーの一人が叫ぶまでは誰も気にはしていなかったのだ。


「に、忍者だ! 忍者構文の忍者が、現実に姿を見せるとか……聞いていないぞ!」


 巨大ロボットの方も、パワードスーツの方もデザインは異なるが、共通しているモチーフが忍者だった。


 パワードスーツの方は、一部のARパルクールなどで目撃事例もあるかもしれないが、転売ヤーに恐怖を植え付けるには手っ取り早かったのである。


 パワードスーツの忍者も何かしゃべるわけではないので、無言で転売ヤーを制圧していることに変わりはないのだが……転売ヤー側に力を貸す人物は、周囲に誰もいない。



 それから数分後、ガーディアンが駆けつけたころにはパトカーが数台止まっており、警察の方も動き出していたのである。


 市民からの通報で「大声がするので対処してほしい」という事だったが、到着してみると転売ヤーが何者かに拘束されていたのだ。


(警察の方が駆けつけるのが早い?)


 ガーディアンの1人は遠方から様子を見ていたのだが、警察にガーディアンの動向を知られるのはまずいため、上層部に連絡を行い、その後に指示を……という事だった。



「たった1体の巨大ロボットで転売ヤーを一掃? おかしくないですか?」


 ガーディアンのメンバーの男性も、幹部の発言にはかなり疑っている。


 転売ヤーが何か武装をして、なおかつ……であればわからない話でもない。


『しかし、実際に起こった事実だ。受け止めるしかない』


 幹部も若干開き直っているように見えるが、こればかりはどうしようもないのだ。


 様々なメーカーが拡張現実を利用したゲームに投資をした結果、生まれたのが拡張現実用のロボットフレーム、大量の電力を確保するための太陽光発電や水力発電システム……。


 誰がここまでやれ、と言いたくなるような技術を彼らは開発してARゲームをプレイできるようにしたのである。


「拡張現実、日本では他の国よりも一足、それ以上の技術力を披露しているでしょう」


「しかし、それだけのためにロボット技術などが急速発展するのは、明らかに……」


『その順番はおかしい、そういいたいのかね。しかし、これはフィクションではない。現実は受け止めるべきだ』


 ガーディアンのメンバーの男性も言いたいことはある。物事には順番があり、それに従うべきだ、と。


 それでも、ここ最近のロボット技術などの進歩は拡張現実ゲームの発展がなければ、成立しなかった。


 何故、人はここまでの事をしたのか? 何故、拡張現実ゲームをプレイするという事だけに、ここまで全力を出したのか?


「我々は、SNS炎上を阻止するための組織、のはず。これでは炎上阻止どころか……」


『ガーディアンが炎上を広げるきっかけを作っている、そういいたいのか?』


 そこで、ガーディアンのメンバーの男性は、本音をぶつけることにした。


 ガーディアンは炎上阻止が目的のはずなのに、今やっている行動は「別の炎上を広げた上で、他のカテゴリーへの炎上を阻止しているのではないか」と。


『これだけは断言できるだろう。SNSの炎上は規模はどうあれ、必ず起きるといわれているのが現状だ。それを起きないようにするのが、我々の仕事なのだ』


 その後も色々と話はあったが、これ以上の話し合いをする余裕がないのか、この発言を最後に通信は切られた。


(今の時代、SNS炎上は犯罪であるという事が明確にされている。日本以外でも、それは同じはず)


 彼は別の意味でも色々とありつつも、今は何も考えないことにする。


「あの忍者は、何が狙いなのか? そもそもオーディエンスとはいったい……」


 まだ、謎は全て解けたわけではない。忍者構文もそうだが、残されている謎は多いだろう。


 炎上勢力とは、そもそも何なのか? 疑問はありつつも、彼は再びダンジョン配信の情報を集め始めていた。

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