第7話『この世界のダンジョン事情あれこれ』

第7話その1

(これが、ダンジョン神のダンジョン……)


 ガーディアンが転売ヤーの騒動を追跡しているその間、ダンジョンしんのダンジョンを調査している人物がいた。


 その人物の名はタケ、いわゆるバ美肉配信者……というわけではないのだが、似たようなものだろう。


 外見はくノ一を思わせるようなアバターだが、中の人は男性である。声に関していえば、ボイスチェンジャーで声を変えていた。


 一連の転売ヤーの暴走は、思わぬ形で決着することになったが、その顛末を現段階でタケは知らない。


(見た限りでは、ARダンジョンと似たようなものか。仕様はだいぶ異なるが)


 天井までの高さが10メートル以上はありそうな気配に加え、地下2階のようなものはない。


 ある程度だが第1エリアを見回った限りでは、複数エリアで構成されたダンジョンというべきか?


 それを踏まえると、ダンジョンとは名ばかりでFPSなどのフィールドと言った方が話が早いのかもしれないが……。


 モンスターに関しても、その強さはピンキリではあるのだが、奥のエリアに行けば相応の強さのモンスターがいる。


 武器に関しては持参を前提としているが、近日にアップデートが予定され、装備各種もエントランスで購入できるようになるようだ。


 一方で、ダンジョンとは言ってもゲームとは違うので、レベルアップなどの要素はない。


 モンスターを倒せばトレジャーは手に入るが、それらを使う装備などが今後のアップデートで実装……との事。


(他にも冒険者はいるが、同じような忍者は……?)


 第1エリアを見回った後なので、次は第2エリアを……と考えていた中で、ある一行を発見する。



「ダンジョン神というから来てみたが、そこまで一般的なダンジョンと変わらない」


 それは侍のような軽装備をした男性冒険者の一行である。


 彼らはリアルダンジョンでは出禁となっており、ここのダンジョンへやってきた様子。


 いわゆる迷惑配信者というべきか? もしくは『バズり』目的の勢力かもしれない。


「唯一の違いは、ここが比較的にメジャーではないから……」


 別の甲冑姿の武者と思わしき人物が、他の無関係な冒険者へ斬りかかろうとする。


 しかし、それを止めたのは……。


「なんだ? この忍者は……」


 武者の刀を寸前で弾き飛ばしたのは、全長2メートルほどのロボットだった。


 カラーリングこそは、蒼影そうえいに類似するが、そのデザインは大きく異なる。


 ロボットの方もデザインベースとしては、いわゆるSDを意識したようなものになっているのだが……蒼影に似たような個所もゼロではない。


 むしろ、このSDタイプのロボットは蒼影を参考にして作ったのではないか、と言ってもいいだろう。


(あのロボット……天井の事を踏まえると、そういう事か)


 タケは改めて天井の方を見上げると、その高さが何となくだが見えてきた。


 明らかに何かへ変形するような脚を思わせるキャノン砲、肩のアーマーも忍者というよりは武者や侍のイメージがある。


『まさか、他のダンジョンで追放されたからここで改めてダンジョンを荒らす……そんなことはさせない!』


 ロボットの方がしゃべったことにタケは驚くしかない。しかも、あちらは男性の声をボイスチェンジャーで出しているのも何となくわかった。


 声のテンションを踏まえると、あえてキャラを作っているのかはわからないが、手探りでやっている気配は感じている。


 自分も他人のことは言えないが……。


(報告にあった蒼影はしゃべらないという事だったが、あれは違う忍者なのか?)


 タケの方は報告とはデザインが違う忍者ロボットに驚くしかなかったし、喋ることも二重の意味で驚くしかない。


 忍者構文は『フェイクが混ざる可能性があり、参考にはならない』とガーディアンもスルー気味だったのは、この為だったのか?


「貴様、何者だ!」


 別の弾かれたものとは別の刀を構え、武者の冒険者が忍者ロボに向かって叫ぶ。


 しかし、その返答はまさかの台詞で返されることとなった。


『迷惑配信者のかませ犬に、名乗る名前などない!』


 そして、その忍者ロボは腕に装着されているシールドと思わしき物から、ビーム苦無を飛ばし、瞬時に迷惑配信者を一掃した。


 まるで「この先、この迷惑配信者が本編には関与しないので、さっくり退場させます」と言っているようなものか。


 タケは、あまりにもチート過ぎる性能を披露した忍者ロボットに対し、もしかすると……と考えた。


(蒼影とは違った意味でも、脅威と言えるか。調査対象に加えておくか)


 後に、この忍者ロボットがしゃべったのは、このケースのみで他のケースでは無言で迷惑配信者を斬り捨てているという報告を見ることになる。


 明らかに蒼影を向こうは意識しすぎて、あのような行動に出たのでは……という気配がしないでもないだろう。



【また、あの忍者ロボか】


【外見が明らかに違う。あれは別物だ】


【ダンジョン神のダンジョンでは、一部が巨大ロボットを使用しているという話も聞く】


【つまり、あのダンジョンでは巨大ロボットを使える、と】


【ガードセキュリティの類がロボットだという話だ。つまり、そういう事だろう】


 つぶやきサイトでは、さっそく今回の件に関して拡散されている。


 忍者構文に書かれた忍者とは違うロボットの出現、それは忍者構文に便乗しようという『バズり』勢力なのか?


 それとも、便乗ではなく向こうが本物なのか……それは、まだ定かではない。



「これは、一大事かな」


 身長は160と少しありそうだが、靴がブースター付きのもので下駄をはいているような状態。


 服に関してもTシャツには美少女メイドの姿のプリントされたものを着ていた。3サイズなどは割愛する。


 ダンジョン配信ではアヤネというハンドルネームを使っている彼女は、バイト先のゲーミングパソコンショップでいつもと同じくネットサーフィンをする。


 彼女も過去にはダンジョン配信をしていたメンバーの一人だが、今の状況では復帰も難しい。


 下手をすれば、まとめサイトなどで便乗勢として晒し上げされる危険性だってあるからだ。


 さすがに晒し上げなどの行為をすれば、行った方にも相応のペナルティが与えられるのはガーディアンの存在するこの世界では……当たり前の事である。


 アカウント凍結程度で済めばまだよい方だが、最悪のケースではガーディアンによる更生プログラムを受けるという噂も。


 更生プログラムは、わずか数時間で終わるという話の一方で、その内容は口外禁止が徹底され、全くの謎に包まれているが。


「忍者構文に便乗した忍者は、あの忍者ロボットに限った話じゃないけど……」


 アヤネは右の人差し指で頬をかきながら、この状況をどうするべきなのか考える。


 やはり、自分も介入するべきなのか? しかし、現在のバイトを踏まえると介入は難しい。


 スケジュールは向こうで何とかはしてくれそうだが、自分がダンジョン配信をやっていたという事実が店長などに知られたらどうなるか?


 あまり事は大きくしたくはないのだが、現実はそうもいかない可能性が高いだろう。

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