第2話その2

 周囲に住んでいる市民でさえ、ざわつく展開となったこの日の騒動は、思わぬ展開になった。


 ガーディアンが調査のために訪れたのはとある事務所。事務所だけわかっているが、何の事務所なのかは地元住民もわからない。


 この事務所では、違法なまとめサイトを運営しているという事が情報を集めていくうちに判明する。


 周囲を巨大ロボットやSFに出てくるようなパワードスーツが姿を見せる光景は、埼玉県民だと恒例行事か、と割り切る人物もいるかもしれないが……。


「なぜ、ここではまとめサイトを運営してはいけないのか!?」


 事務所の入り口から出てきたのは、一人の男性だった。彼は敗北を認めておらず、ガーディアンに抵抗する気でいるようである。


 さすがに彼の方も無策で外へ出たわけではない。


 右手にはあるものを持っており、それをガーディアンのロボットに向けて投げつける。


「他のエリアでは許可がなくてもサイトを運営でき、数兆円規模の利益を上げているサイトもある。それなのに……」


 彼が投げたものは、いわゆる缶と思われるものだった。一見すると、いわゆる飲料で見かけるような物とは形状も異なるが……。


 ロボットに当たった次の瞬間には、缶のフタが開き、何かがまかれたようにも思える。


 これは自作の手りゅう弾などではないのだが、ガーディアンは何かを警戒した。爆薬であれば、かなりの騒動に発展するだろう。


 実際は何も爆発するようなこともなければ、周辺のガーディアンが体調を崩すことはない。


 フタが開いてまかれたものはジュースなどの類でもなく、ロボットの方である挙動システムエラーが確認された直後、周囲がざわつき始めた。


 間違いなく、それがまかれた瞬間にガーディアンは行動を起こしたのである。 



『ガーディアンに抵抗した以上は、こちらも相応の対応を取らせていただく』


 女性ガーディアンが、次の瞬間に右腕のビームブレードを展開、そのブレードは無線式のドローンのような動きを見せ、次第に速度を上げていく。


 ブレードの速度は、次第に男性が目視できないようなレベルになっていく。時速100キロは容易だろうか?


 それが10本、無差別に攻撃を与えていくのだが、この流れだとガーディアン側のワンサイドゲームにも見えなくもない。


 しかし、ガーディアンは彼が投げたものが何なのかを知っていたので、実力行使……というよりも完全排除を決めていたといってもいいだろう。


 その判断は、わずか30秒足らず。缶の中身が散布されたロボットのアーマーに若干のノイズが入った段階で、即決だった。


 あまりにも冷静な判断なため、彼女がいわゆるAIを利用したアンドロイドなのでは、と周囲から疑われても不思議ではない。


「この缶に、何が入っていたと、言うんだ」


 ブレードの打撃をピンポイントで受け、記憶が薄れていく男性。


 彼は缶の中身が何なのかを知らなかった。当然だが、上司も外の光景を見て、何なのかは把握していない。


 事務所に置かれていた商品の一つをひそかに持ち帰ろうとし、それを苦し紛れに投げたのだ。


『この缶に入っていたものは、拡張現実データを無効化する霧状のコンピューターウイルス。拡張現実ゲームでいわゆるチートプレイを行うため、使われるもの』


 拡張現実を使用したゲームでもプログラムで出来ているのだが、こういったウイルスには耐性がない。むしろ、弱点といえる。


 世間一般でいうようなコンピューターウイルスやランサムウェアのようなものは、拡張現実ゲームの前には無力であり、セキュリティも完璧だ。


 しかし、それに対して唯一の弱点といえるもの、それがプログラムとは異なる仕組みを持った、このウイルスだったのである。


 実際にウイルスといっても人に感染する仕組みの物ではなく、効果という意味で『ウイルス』を名乗らせているだけにすぎないからだ。


 実際、商品名も効果に関しては明言せずに『ウイルス』と名乗らせているので、警察から見てもアウトのシロモノだろう。


『類似する効果を持つものを例えれば、拡張現実ゲームに特化したチャフグレネードだ』


『こういったものが拡張現実ゲーム、それも非合法のギャンブルでも使われたら、それこそ5000兆円規模のブラックマネーが飛び交う事になる』


『ガーディアンの目的はSNS炎上を防ぐ狙いもあるが、チートを排除するというのもある。それを忘れないことだ』


 その後、倒れた男性を別のガーディアンが確保、事務所の強制捜査の方も始まった。


 最終的に捜査の過程で違法な拡張現実ゲーム用のウイルス缶がダンボール箱単位で発見、このほかにも取引先企業のリストを押収するが、それ以外は発見できなかった。


 パソコンを押収しようとも思ったが、ガーディアン側で気になる部類のデータは一切なかった。



 それからしばらくして、お昼のニュースで今回の事件が取り上げられることに。


『本日、埼玉県〇〇市にある事務所で転売ヤーの裏バイトを仲介していたとして、社長が逮捕されました』


『この事務所では、転売ヤーのために様々な裏バイトを斡旋していたことが判明し、警察も調査を行おうとしていた所でガーディアンが制圧をした模様です』


 AIによる自動音声ではあるが、その内容は物騒なものであるといわざるを得なかった。


 これを見ていた様々な人物が、ある事件を思い出そうとしている。


「さすがにガーディアンを伏せることは出来なかったか。しかし、これも仕方がないといえる」


 草加市の某所にある事務所、同じような転売ヤー向け裏バイトの斡旋を行う事務所では、このニュースを対岸の火事とは思っていなかった。


 冷房の効いた事務所内でテレビをチェックしていた男性は、ニュースが報道されるタイミングを踏まえ、無差別にガーディアンが動いているのでは、とも考える。


 仮に警察は何とか回避できたとしても、埼玉県内にはガーディアンというSNS炎上阻止を目的とした組織が存在しているのを忘れてはいけない。


 彼らは炎上案件となるものを発見したら最後、大規模テロや暗殺などといった部類を除いたありとあらゆる手段を使う。


 それこそ、コンピューターのハッキングでまとめサイトの情報を抜き出す行為も行うかもしれない。


 しかし、押収されたのは段ボール数箱の拡張現実ゲーム用のウイルス缶と取引先企業リストのみが引っかかっていた。



 この事件は、ダンジョン神を生み出したともいえる男性社員の耳にも届いている。


 ダンジョン神を生み出すきっかけになったデータ自体、あの事件とは無関係かもしれないが、警察の捜査が入らないか、と不安にはなっていた。


「取引先企業にうちの会社がなければいいが」

 

 彼が不安になっていたのはデータではなくウイルス缶と呼ばれるものの取引先に、自分の勤めている会社が含まれてないか、という個所だったのである。


 下手に警察の捜査が入り、それこそダンジョン神の存在が知られてしまえば、逮捕される危険性だってありえた。


 AIといっても、AIイラストが原因で起きたような事件を踏まえると、こちらはあくまでもダンジョン運営の補助で使っているものだ。


「とにかく、まとめサイトなどに狙われないような……!?」


 テレビのニュースが次の話題に切り替わるタイミングで、男性社員はとあるまとめサイトの記事を発見する。


 その内容は、電脳空間にできたダンジョンでダンジョン配信を行っている人物に関するものだが、キャプションの画像を見て、明らかに見覚えのあるダンジョンに彼は驚くしかなかった。


(まさか、このような形でダンジョンの存在が明らかになってしまうのか?) 


 まとめサイトのコメント欄には、様々なコメントがあるのだが……その中で彼は気になる記述を発見する。


【これって、300年前の事件の再来では?】


 半分は冗談で書いたようなコメントというには、反応が他のコメントとはケタが違う。


 リアル配信者が行っている迷惑配信と同レベルというようなコメントなどが炎上しているのを踏まえると、それとは別の意味で反応がある、というべきか。


(まさか? そんなことが……)


 ダンジョン神のベースとなったデータを改めてみると、確かに作られたのが300年以上前の記述だ。


 今から300年以上前と言ったら、日本では江戸時代である。


 まさか、江戸時代にAIのようなものがあったり、ダンジョンが存在していたとでもいうのか?


 海外から取り寄せた部類の設計図と考えたとしても、かなり無理のあるような記述だってある。


 もしかすると、作られたのはごく最近で300年以上前の記述へ意図的に変えたのか……疑問は深まるばかりだ。

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