第2話『ダンジョンの出現と300年前』

第2話その1

 その翌日、動画サイト上ではとある動画が予想外の『バズり』をしていた。


 複数の動画がバズっており、その中には折羽おりはねフウマに関するものもあったという。


 しかし、フウマに関する動画はあるタイミングで不自然に削除されており、何があったのか、という声も……。



 削除されていないものでバズったものと言えば、「新しいダンジョンができていたので、行ってみた」という内容のものである。



『リアルのダンジョンでは、大手以外はほぼ撤退しているのですが……その中でこのダンジョンを発見しました』


 男性配信者のある動画が、このタイミングでバズったのには別の理由があった。


 彼が発見したダンジョン、それはダンジョンしんのダンジョンだったからである。この段階では本人が動画を巡回した形跡はない。


 天井はほぼ見えないであろう高さ、SFチックな壁やドア、床もゲーミングパソコンみたいに発光はしないが、近未来的なもの。


 出現するモンスターは、リアルダンジョン……それこそ拡張現実で使用されているモデルにも劣らないようなビジュアルを持つ。


 装備に関してはダンジョン神のダンジョンで販売はされておらず、持ち込みになる点は指摘していたが。


 難点を差し引いても、リアルダンジョンとは比較にならないような環境が、そこにはあった。


 リアルの場合はごみ問題や迷惑配信者による炎上もあったため、バーチャル空間で展開されるダンジョンは視聴者にとっても想定外だったのだろう。


 実際、この男性配信者は顔見せをするタイプの配信者でもなければ、ゆきツバキのような顔は見せずに声だけ配信を行うような実況者などとも違っていた。


 彼の正体、それはアバターを用いたバーチャル配信者だったのである。


『このダンジョンを、私はダンジョン神のダンジョンと名付けたいと思います』


『これだけのものがオープンして数日は経過するのに、流行っていないのは非常におかしいのです』


『下手に宣伝すれば、リアルダンジョンで起きた迷惑配信者による事件が起きないとは限らないですが……作っただけで放置されるのも何か違うのです』


 彼の思いは口調が若干強くなっていることからもわかる。余談にはなるが、彼はダンジョン神と認識があるバーチャル配信者ではない。


 ダンジョン神を生み出した一般社員の知り合いでもなく、完全な第3者視点といえるだろう。


 そのような人物の発言が、思わぬ方向で『バズり』、思わぬ勢力が炎上させようとは、投稿した本人も全く知らなかった。



 午前8時を少し過ぎた辺り、埼玉県某所にある事務所の一角、そこでは動画を投稿して『バズり』を獲得し、自分の事務所の知名度を上げようとした人物がいた。


 この事務所は書類が整理整頓されているように見えるが、その中身は企業機密が多く、一部の特定社員以外は閲覧できない。


 ノートパソコンも似たようなものだが、こちらは仕事道具みたいなものであり、セキュリティ的には社員であれば誰でも使える。


 そのパソコンから動画を投稿した男性だったが、その動画は削除されたのだ。しかも、同じものを複数回も……。


 事務所の営業時間となり、入り口の看板も『受付終了』から『受付開始』に変更し、事務所内の作業も開始された。


「動画の方は……申し訳ありません。削除されたようです」


 動画の方はガイドラインに違反していたのでわずか数分で削除という結果に対し、事務所に到着したばかりの上司へ報告する。


 営業時間内に報告するのはアレだったかもしれないが、事態が事態だけに報告をせざるを得なかった。


「そんなことがあるか! 我々の動画は特定の政党や芸能人などの批判には当たらない。それが消されるとは、何かの陰謀に違いない」


 上司の正体、それはとあるまとめサイトの管理人で、アフィリエイトで数億は稼いでいるであろう人物でもあった。


 表の職業はまとめサイトの管理人ではないが、似たようなもの……かもしれない。


「何度か試したのですが、やはりだめだったらしく……」


「何度も? まさか、同じ内容のものを複数回投稿したのか?」


 男性の報告を聞き、上司もさすがに若干の不安要素を抱くことになった。


 同じ内容の動画を修正なしで何度か投稿すれば、動画サイト側も警告を出すだろう。


 しかし、それだけではない。近年はAIを利用した動画などもあり、一部は著作権的にもアウトという事で規制対象になっているのだ。


 自分たちの動画はAIこそは使っているが、AIイラストなどは未使用である。著作権侵害には当たらないはずだが……。



 しかし、彼らは動画のガイドラインではなく、別の意味でも致命的な箇所を忘れていたために動画を削除されたことには気づいていない。


 これより先は、とある組織の存在を知らなかったことを踏まえ、見ていただきたいと思う。



 とある番組の放送終了後翌日、時計は午前7時を指している。事務所にいる社員は、動画投稿を行う男性と一部のバイトのみ。


 上司に関しては、まだ事務所へ向かっている途中で到着はしていない。午前8時頃には到着するとのことだ。


「この動画を投稿すれば、まとめサイトへのアクセスが集中し、またまた数億の利益が秒単位で手に入る」


 上司の指示ではなく、男性が編集して投稿した動画、それはいわゆるフェイクニュースの類であった。


 その内容とは『忍者構文』と『折羽一族』が実はつながっており、構文に書かれた忍者の正体が折羽フウマである、というもの。


「あとは、この動画を投稿すれば……」


 編集が完了して、動画を投稿したのは午前7時30分。確かに動画は投稿処理をされており、間違ってもエラーの類は表示されていない。


 それから再生数が数万位まで上がっているのを確認し、彼はまとめサイトの記事作成を再開していた。



 それからわずか数分後、電子メールが社員のパソコンに届く。それは動画サイトからのメールで、内容は……。


『申し訳ありませんが、該当する動画はガイドラインに違反していたことにより強制削除いたしました』


 内容を読み上げた男性が別の意味でも言葉を失う。


 性的要素もなければ、暴力的なグロ描写が入っていたわけではないのに、なぜ削除されなければいけないのか?


 勘違いで削除されていては冗談ではない、そう思った男性はタイトルを微妙に変更したうえで再投稿準備を行った。


 他のライバルサイトが自分たちの動画だけ再生数が多く、何かの理由をつけて削除申請をしたとも考えられるため、最初は特に不満はありつつも再投稿を行う。


 結果は、ことだった。



「下手に同じ内容のものを投稿すれば、ガーディアンにも目をつけられてしまう」


「ガーディアン? それこそ都市伝説フェイクニュースでしょう」


 動画を投稿した男性は千葉県からこの事務所へ通っている人物だった。それを知った上司は、別の意味で頭を抱えることとなる。


 ガーディアン、かつては東京の秋葉原を拠点に活動していたとも言われているSNS炎上を阻止するために存在する非政府組織。


 彼らの武装はもはやSFの領域に踏み込むかのようなもので、彼らに目をつけられたら最後、と、まとめサイトの業界内では有名である。


「大変です。パソコンが起動しません!」


 別の男性社員からの報告を受け、上司がますます涙目になりそうになっていた。ガーディアンがパソコンをハッキングして情報を回収しようとしているのだ。事務所にあるパソコン全てで起動しない、というのである。


 しかし、起動しなかったのは正解なのだが……今回に限ってはガーディアンの仕業ではない。



 該当するまとめサイトの電脳世界、そこに姿を見せていたのは全長2メートルという蒼をベースにしたカラーリングの人型忍者ロボット、蒼影そうえいである。


 何故、蒼影がここに姿を見せ、周囲に現れた足軽型ロボットを撃退しているのかは不明だ。


 蒼影は無人機である一方で、人語は理解するかもしれないが喋ることはない。無言で、ただ足軽型ロボットをビーム刀で斬り捨てていく。


 斬り捨てていく速度は、あまりにも早く……それこそパソコンのローディング時間の合間にウイルスを除去していくような勢いだ。


 これに関してはまとめサイトの管理人も知らなければ、誰にも気づかれてはいない。


 全てはSNS炎上を考える勢力を駆逐するため、蒼影はひそかに炎上のきっかけとなるものを消滅させている、といってもいいだろう。



「パソコンは起動しました。気のせいだったようです」


 別の社員からの報告を聞き、上司はガーディアンが来たと焦っていたのだが、何とか落ち着きを取り戻している。


「やはり、ガーディアンは都市伝説としでんせつですよ」


 男性の言うとおりであり、上司の心配は余計な心配なのだ、と。


「しかし、埼玉県内では……!?」


 上司は更に別の懸念に気づくことになる。埼玉県内ではまとめサイトを立ち上げるのに許可がいるのだ。


 無許可でまとめサイトを立ち上げようというのであれば……。


『こちらはガーディアンだ。無駄な抵抗はせず、おとなしく敗北を認めなさい』


 ガーディアンの女性の一人が事務所にいる人物に対し、敗北を認めろ、といわんばかりに警告を行う。


 その女性の外見は、明らかにSFモチーフとしたパワードスーツを装着し、背中にはバックパックユニット、右腕には固定型のシールドを兼ねたビームブレード、警察でも使わないような装備のオンパレードだ。似たような装備の男性もいるが、こちらはチェーンソー型のビームブレード、ビームバズーカなどといった装備も散見される。


 しかも、周囲にはガーディアン製の全長3メートル近くの人型ロボット兵器も配備されており、逃げ場はない。


 このロボットが起動されたりでもしたら、ガーディアンに抵抗しよう物であれば逮捕は確実だ。


 下手をすれば、社会的に抹殺されるのは避けられない。そう考えた上司を始めとした一部は敗北を認めた、のだが……。

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