第135話魏 その4

 曹丕は劉操と義兄弟を辞めてから感情をほぼ失った。

 曹操の死後、跡目争いに乗じて一族を処刑するのに史実以上にためらうことはなかった。


 魏はますます弱体化し、それを支える藩屏もなくなっていった。 




 それを見越して、司隷しれいだけを食べ盛りの子が好物をわざと残すように取って置き、蜀軍は中華全域を進軍していった。


 西から劉操軍来たる!

 南から劉備軍来たる!

 東から関羽軍来たる!

 北から趙雲軍来たる!


 その報は残った洛陽の曹丕を震え上がらせ、カタコトであった曹丕は何十年ぶりにか己を取り戻した。

「曹魏は負けたのか……」


 四方から洛陽を包囲した軍から、ひとりの若武者が現われた。

「丕よ、我が弟よ!聴け!」

「劉操……あにうえ……」




「我らが争ったのは、我が父が朝敵であればこそ。しかし今や立場は違う!」

 拳を振り上げ、劉操は大声で張り上げる。

「今や丕、そなたが正当なる漢軍の朝敵である!強い者が官軍なのではない、勝ったものが官軍なのだ!」

 劉操は拳を振り下ろす。

「曹丕、降伏せよ!命を取らぬどころか、財産さえ保証してやる!」


「父の仇にそんなことができるかっ!」

 洛陽の門を開け、曹丕が一騎で出てきた。

「よくも偽医者などと姑息な手を使いおって!魏には貴様に首を獲られる者はおっても、降伏する者なぞひとりもおらん!卑怯者の劉一族!貴様らなどが居なければ、曹魏によって天下は定まったものを……」


「丕、いいか。よーく聴け!」

「なにがよーく聴け、だ!貴様から聴かされたことで良いことがあった試しがないわ!」

 曹丕は槍を構える。

「この卑怯者に一騎打ちを所望する!」


「良いだろう、かかって参れ!」

 すかさず劉操のもとへ、愛用であるはずの矛をお付きのものが届ける。




 が、転ぶ。




「丕、ちょっと待て!準備が出来ておらん!」

「問答無用!」

 曹丕は一直線に劉操のもとへと馬を奔らせる。






 が、夜中に掘られた、K〇EIの三国志Ⅲのような、見え見えの落とし穴がそこにはあった。

「だから言ったであろう。準備が出来ておらん、とな」

「くっ、卑怯者!」

「褒め言葉として受け取っておこう……」


 洛陽の民はもちろん曹丕と運命を共にすることは望まなかった。






 こうして、劉家による天下統一は手紙による憤死・流言飛語・騙し討ち・同盟強制破棄・偽大工・藪医者・落とし穴というロクなものがなく完成した。

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