第133話魏 その2

 あまりの事態に、曹操は発症した。

「なんということだ。徐州で諸葛孔明という男を手に入れておれば、今のこの苦境はなかったはず……」


 自分が徐州でやった行いがそのまま返ってきて、曹操は苦しみ、悶えた。

 曹操は薬湯しか口にしなくなり衰えていった。


きょは気を変えると申します。ここらで新しい宮殿でもお建てになったら如何です?」

 その進言に従い、曹操は莫大な新宮殿を建てることにした。

「よし、新殿を建てよう!だれか、建築の名人は居らぬか?」

「洛陽に蘇越そえつという名工がございます」

「よし、そいつを召し出せ!」


 蘇越へただちに使者が送られ、蘇越はすぐに新殿の設計図を持ってきた。


「ふむ、なかなか良い設計図じゃが、この本殿には大きな棟木が必要であろう。こんな大きな材木があるか?」

「はい、洛陽から30里の祠に高さ十余丈の千古の神木がございます。これを切って棟梁はりとすればよろしいでしょう」

「ほう、神木!それは良い!すぐ作業にかかれ!」

 ところが、人夫たちは祟りをおそれて誰も巨木に手を出さなかった。


「なに、人夫たちが木を切らぬと」

「はい、神木を切ると祟りがあると申して……」

「よし、わしがその迷信を追い払ってやる!」

 曹操は車に乗って神木のもとへと向かった。


「なるほど、神木と申すはこれか」

 曹操は刀を抜いた。

「よく見ておけ!最初の刀は余が入れる。もし木の精が居るのであれば、この曹操に祟るであろう」

 曹操が木に刀を入れると血のような樹液がピューと飛び出した。

「良いか、祟りがあるとすれば余に降りかかる。安心して切るが良い!」

 曹操は車に再び乗り、宮殿へと帰った。

 

 しかし人夫たちは、まだ恐れて斧を使おうとしない。


「何をやっておるのだ!」

 曹操は苛立つ。


 そして戦況が芳しくなくなってきたのに、巨大な宮殿を作ろうとする曹操に対して家臣や民も苛立って来た。

「ええい、たかが宮殿ひとつにいつまで時間をかけておる!蘇越を呼べっ!」


 しかし、蘇越はもはや居なかった。

「どういうことだ!」

「蘇越は劉操の配下の陸遜というものがすり替わっていたようです。今の魏の力で、ギリギリ建てられぬように設計図を作り、国力を弱めさせることが目的であったようです……」

「なんだとっ!」

 その日から曹操の容体は日増しに悪くなり、人々は神木の祟りと噂し合った。

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