第132話呉 その4

 孫権は臥せっている。


 なにやら魏が攻めてきたらしい。

 しかし、孫権には頼りとなる者が居る。

「これ、魯粛を呼べ!」

 孫権を見捨てずに来た魯粛は、急いで参内した。


「粛、戦況はどうなっておる?」

「はっ、とても非常に悪いです……」


「あの男を呼べっ!」

「はっ?あの男とは……」


「決まっているだろう、周瑜だ!兄上がいまわの際に内は張昭に、外は周瑜にと言ったではないか!」

「と、殿……」

 魯粛は涙をこらえずには居られなかった。


「周公瑾どのは……公瑾どのは野ざらしのままでございます!」

「何を言っておる!公瑾が野ざらしなどと死んだ風に申すな!」

「殿……」


「瑜が居ないのであれば、では張昭を呼べ!」

「張昭どのは、何者かの手にかかって、もはや居りません」

「では張紘じゃ!」

「張紘どのも……」


「では誰が居る!?呉には国を司る元帥としてだれが残っておる!?」

「もはや私と呉候しか居りませぬ……」

 その言葉を聴くと、ひたすら泳いでいた孫権の眼がピタッと止まった。


「誰も、居らぬのか……?」

「はっ、主だったものはすべて劉操のもとへと落ち延びていきました」

「なんと……」


「呉候、堅君と策君の残した呉はもはやありませぬ。こうなったら長江に舟を浮かべ持久戦で持ちこたえ、荊州へと援軍を頼みましょう!」

「劉操のもとに我が将軍たちが居るのであろう。なぜ荊州を頼れる!?」

「劉操はともかく、劉備は赤壁のときの恩を感じているはず。ここで裏切るようであれば劉備もたいした人物ではありますまい。後世にて笑われるだけです。使者を出しましょう!」


 正気を取り戻した孫権は冷静に分析し、荊州へと使者を送った。


 魏軍と相対すること70日。

 荊州軍がやって来た。


「援軍です!劉玄徳の援軍です!助かった……」

 呉軍は一斉に気を緩めた。

 それと同時に魏軍が撤退していった。

 どうやら西で劉操が派手な軍事を起こしたらしい。


「関雲長、見参!」

「趙子龍と龍与傷槍りゅうよしょうそう、白竜にてただいま参った!」


 孫権が援軍を自ら出迎えようとしたとき、魯粛が馬を奔らせた。

「どうやら劉玄徳という男を見誤っていたようです!」


 関羽と趙雲は、気の緩んだ呉軍にそのまま突進してきた。

 もちろん劉備と孔明の内意・・を受けて、である。


 孫策以来、ぞんざいに扱われてきた呉の民、山越なども一斉に蜂起した。


「もはや呉には居れぬ。台州か壹州に渡るとしよう!」

 呉は三代で滅び、その血脈は海を渡った。

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