第131話魏 その1
「申し上げます!魏が呉に攻め込みました!」
漢中を攻略しようとしていた劉操のもとに連絡が入った。
「若殿!呉を助けるふりをして攻略すべきです!」
徐庶が言った。
「誠に遺憾ながら、これで呉の命運は尽きたでしょう」
呂蒙が言う。
「皆、異存はないか?」
ひとり手を挙げた。
「いまこそ、長安を奇襲すべきです!」
魏延である。
「ほう」
「魏の主力は呉に向かっています。その間を縫って漢中どころか関中すべてを抑えましょう!」
「ほう、ダジャレか」
「はっ」
――
「若殿が主力を率いて注意を逸らしている間に、拙者が別動隊を率いて長安を急襲します!それで如何?」
ニヒルに魏延は微笑んだ。
「この場に孔明が居たら反対するであろうな」
見てきたかのように劉操は言った。
「若殿はこの案に反対ですか?」
龐統が言った。
「龐統、そなたはどう思う」
「私は良い考えだと思います。漢の正義の軍が長安を救出するのです。涼州や雍州はいわば枝葉。長安が落ちれば蜀に帰属するでしょう」
「よし、やってみるのも手だろう。魏延、そなたは韓信に倣うか」
「はっ」
「相手は項羽のように単純ではない。大丈夫か?」
「お任せくだされ!」
劉操軍は漢中を急襲し、黄忠は夏侯淵を捕らえた。
その激闘の間に別動隊を率いた魏延が長安の鍾繇を襲った。
「我が叔父上である。丁重に扱え!」
劉操の前に捕縛された夏侯淵が連行されてきた。
「早々に首を切るが良い!」
「我が正室の叔父上であらせられる。なぜ命を落とさせるような真似ができましょうや」
「私も武人として恥を知っておる。魏を裏切ることなぞできん!」
「叔父上、あなたが所属しているのは魏ではないのです」
「む……」
「あなたが属しているのはこの中華。中華を統一するために力を貸して頂きたい」
「戯言を……論点をすり替えたに過ぎん」
「そうではないのです、民を見てください。民は安全と食料が保障されれば国などどこでも良いのです。魏であろうが呉であろうが蜀であろうが。しかし曹操どのに、あの徐州で大虐殺をした曹操にそれが保障できましょうか」
「むむ……」
「世間は英雄を求めている!曹操でも孫権でも劉備でもない、世の中の色を新しく塗り替えるような新たな英雄をです!」
「むむっ……」
「ここで叔父上の首を獲っても互いに損になるだけです。むしろ叔父であるあなたが私の正統性を認め、味方に付くのであれば、天下の賢人も私を認めざるを得ず、歴史は収束をみせるでしょう」
「むむむっ……」
「どうかお力をお貸しいただきたい。魏でも呉でも蜀でもなく、新たな国家のために……」
夏侯淵は客人として遇され、成都へと送られる。
そこで見たのは姪の夏侯響歌とその子、劉融である。
久しぶりに対面したふたりは劉操という人物の話題で盛り上がった。
「なるほど、悪い奴ではない」
そして夏侯淵は長安を包囲している劉操のもとへ、長安の出入り口の割符を持たせて使者を遣った。
割符を持った劉操軍の兵士が長安に忍び込み、大手門の閂を外し、劉操軍はなだれ込んだ。
長安は落ち、涼州、雍州は龐統の予言通りに帰属し、そして并州の一部までもが劉操軍に内通した。
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