第130話劉操の嫡子

「響歌、よくやった!」

 劉備が荊州で本拠を構えている公安に、劉操は張飛を伴い駆けつけ、男子を産んだ夏侯響歌をねぎらった。


「ありがとうございます……」

 響歌はいつものように普通に微笑んだ。

 身重のために成都へ付いて行けず、孫嫋淑(孫尚香)だけが劉操の周りに居て嫉妬しているかと劉操は思ったが、夏侯響歌に限ってそんな嫉妬とは無縁のようであった。


「劉家の三代目だ。それにふさわしい名前を付けなくてはならんな……」

 劉操がそう言うと

「実は前々から温めていた名前があったのです。どうかこの子の名前を私に付けさせていただけませんか?」

 いつもは要求することが何もない響歌の申し出である。

「いいだろう。言ってみなさい」

 優しく劉操はそう答えた。


「融というのです。劉融……如何でしょうか?」

「ほう融合させるという字を充てるのだな」


 劉操は劉融を天高く抱え上げる。

「劉融。おまえは今日から劉融だ!我が劉家が天下を獲ったあかつきには、おまえが三代目皇帝だ!その場合、融という字は使えなくなるからな!」

「まあ、お気の早い……」

 響歌は自分の付けた名前が受け入れられたことと、夫の早すぎる皮算用で満面の笑みを浮かべている。


「では傅役を付けねばならんな……」

 劉操がそう言うと

「では拙者にお任せあれ!」

 そう言って趙雲が自薦してきた。


「却下」

 劉操はにべなく断った。

「な、なぜです?立派な龍の子に育て上げますぞ!」

「だから却下」

 劉操はもういちど断言した。




「ではそれがしはどうです?」

 張飛が言ってきた。

「却下」

「な、なぜです?俺は若の息子のためなら断酒する覚悟ですぞ」


――だ、断酒だと?あの張飛が!?


 張飛の不幸な末路を防ぐためにもここは劉融を任せて張飛に断酒をさせた方が良いのかもしれない。


「飛、もしそなたが完全に断酒をするのであれば、融を任せても良い」

「ははっ!」

「そして融が成人したあかつきには、断酒を解禁して最初に融と酒を呑みかわすことを許す!」

「おっほう!そう来なくっちゃ!」


「飛の息子の張苞を長兄、羽の息子の関興を次兄、そしてこの劉融を末弟として義兄弟とする。飛、そなたは劉融の義父である。厳しくも暖かい傅役となれ!」

「ははっ!なんやかんやありましたが、響歌さまの息子を預かれることを誇りといたします!」

 攫われてからの辛い日々、そして劉操の優しさ、息子を授かった喜びからか夏侯響歌は笑みに涙を一筋追加した。

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