第127話益州攻略 その2
彼は蜀の劉璋の家臣であったが、劉璋では国を保てぬと見て曹操へと蜀を献じようと都へ赴いたのであった。
しかし赤壁の戦い前の曹操は驕り高ぶっており、張松をまともに相手にしなかった。
憤慨した張松は『荊州の劉玄徳はどうであろう?』と都からの帰り道についでに荊州へと寄ってみた。
予想以上の歓待であった。
幾数日も過ごしたが、不愉快なことを感じたことは一度もなかった。
――益州を劉玄徳に献じよう!
張松は仲間に相談せずに独断と偏見で判断した。
しかし劉備は『劉璋は同族だから』とはぐらかすことしかしない。
そこへ劉備の嫡子である劉操が面会を求めてきた。
「劉嗣徳でござる」
丁寧に劉操は拱手した。
「張松でございます」
張松も礼を返す。
ささやかな酒宴が始まるが、劉操も張松に対して蜀への質問はしない。
――劉備もそうであるが、劉操も蜀に興味を持たぬのかな
張松は劉親子ののんびりとした雰囲気に当てられた。
「嗣徳どの。今劉皇叔の領せられる土地は荊州のほかに何郡ございます?」
「ははは、州郡すべて呉よりの借り物でござる。私はこれをとって領有することに何の不義もないと思っておるのですが、父は耳を貸しませぬ」
劉操がそう言うと
「というのも、呉の孫権の妹君を嗣徳さまが夫人にしてしまいましたからな。呉との間に直接的な敵対関係をもたらさないように気を遣って、義理を立てられているのです」
徐庶が言った。
「そのとおりでござる。漢の逆臣ともいえるものが次々と領土を拡大しているのに、我が君は漢の皇叔でありながら実は領土をもたぬ。我が君がもっと自分を主張してくだされば、と我々は歯がゆい思いをしているのでござる」
劉操のもう一人の謀臣・龐統が言った。
「天下は一人の天下に非ず、天下の人の天下でござる。徳あるものがこれを獲るのは当然のこと。まして劉皇叔、そして嗣徳さまは漢室のご一門。正統を受け継ぎ帝位に就かれたとて誰もが納得いたしましょう!」
張松のその言葉に
「そのとおりです!」
と劉操は叫んだ。
「張松どのの説得にこの劉操、心を撃たれました!明日にでも益州へ向けて軍勢を出しましょう!」
「え?明日?それはちょっとこちらも準備が……」
「この劉操は知っています、劉璋が漢中の張魯に悩まされていることを!その援軍として益州へ参ります!」
「は、はあ……」
「さあ、張松どの。早く益州へ帰って劉璋に劉玄徳が嫡男・劉嗣徳が援軍に参ると申してくだされ!」
「え?今すぐですか?」
「早い方がよろしかろう?」
「あ、まあせめて今日の酒宴くらいは楽しもうかと……」
「何を言ってらっしゃる!あなたの1日の酒宴の
完全に論破された張松は、
――少々せっかちで気忙しいが、即決即断でなかなかにみどころがある若者だ。劉備にこんな嫡子が居ようとは例え劉備が死のうとも2代目もなかなかやりおる、と追い立てられるように蜀へと強制送還させられた。
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