第124話呉 その2

 呉の名家、陸家に陸遜りくそん、字は伯言はくげんというものが居る。

 彼はのちに呉の丞相になり、孫権の後嗣をめぐる二宮の変で孫権の言によって憤死する男である。


 彼は孫権と周瑜の仲をめぐり、やきもきしていた。

 しかし、孫権の周瑜に対する対応はあんまりであった。


 さらにそれに追い打ちをかけるかのように、呉越中に主君・孫権を誹謗する噂が流れ始めた。


――さすがになにかがおかしい!


 そう思った陸遜は独自に調査を始めた。




 しかし噂の元へとたどり着くことは困難であった。


『そなたは何を勝手に詮索しておるのだ!』

 孫権の叱責の手紙が、陸遜の元に届いた。

 

 そして荊州へと寝返った賈華より、

『呉候は猜疑の念が強く、あなたの才が大きければ大きいほどのちの災いとなるでしょう』

 と手紙が届いた。


 呉越は孫権の中傷が溢れている。


『もしかしてそなたも余を疑っておるのか?』

 孫権の手紙がまたもや陸遜の元へと届く。




『私は多少・・歴史を知っております。孫仲謀さまが登極したあかつきにはそのうち、丞相としてあなたは呉で人臣位を極められるでしょう。しかしながら、孫仲謀さまの器量は劉景升を少し上にした程度であります。50年ののち、呉でも後嗣をめぐって争いが確実に起きます。あなたはそれに巻き込まれ、憤りのあまり命を落とすことは必定。身辺を綺麗にし、直言をもってしても孫仲謀という人の心は捉えがたい。今、あなたさまの心を計るに「そんなことなど起きるはずがない」と思っていらっしゃるでしょう。しかし、人の世の運命に必ず、ということはないのです。先ほど申し上げたようにあなたが憤死されることもまた必ずではないかもしれません。しかし憤死しないとも断言はできません。あなたのことを思うに今荊州へと亡命すれば、私、劉嗣徳はあなたを必ず重く用い、そしてあなたの名が呉を裏切ったことよりも大いなる功績をもって竹帛ちくはくに刻まれることは私に断言できます。どうか一時の心の迷いをもって大事を誤らぬように忠言したいと思っているだけなのです』


 この劉操の手紙は、陸遜に衝撃を与えた。

 陸遜は未だ無名である。

 それを隣国の御曹司が既に自分を知っており、ここまで真心を尽くしてくださるとは!


 孫権からは相も変わらず詰問の手紙が届く。








 陸遜は決心し、一族全員を引き連れることは断念し、妻子だけを引き連れて新天地・劉嗣徳のもとへと呉を脱走した。

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