第119話華燭の典
盛大に劉操と孫尚香の華燭の典が行われようとしている。
だが、その前に孫尚香は劉操の正室・夏侯響歌の元へと訪れていた。
「響歌さまにおかれてはご機嫌麗しゅう」
そう言って孫尚香は響歌の前でひざまずき、拝礼した。
「わらわは年上ではありますが側室でございます。響歌さまの召使いも同然。どうかいろいろとご指導ください」
その謙虚な姿勢に、響歌は普通に心を打たれた。
「お顔をお上げください。これから二人して嗣徳さまを支えていく身なのです。どちらが上、どちらが下ということがあるでしょうか」
「わらわは歴史で学んで知っておりまする。漢の呂后により、高祖の側室がどんな仕打ちを受けたかということを……」
「いや、私は粛清など絶対にしませんから……」
今度は自分のことを呂后に例えられて響歌は普通にショックを受けた。
「わかっておりまする。しかし、響歌さまは嗣徳さまと式も挙げられていないと聴きました。ここでわらわがしゃしゃり出てくると、御不快になると思うのでは、と愚考いたしまする」
「それは結婚の経緯が経緯だから……」
響歌は普通に混乱してきた。
「そこでです。嗣徳さまと響歌さま、そしてわらわ。三人の合同結婚式にすればよいのではないか、と」
響歌はますます普通を越えて混乱する。
「主役の座を響歌さまにお譲りしたいのです」
響歌はハッ、とした。――なんという謙虚な人であろう。嫌いになることなどできないではないか、と普通に孫尚香に響歌は好意を抱いた。
「呉から花嫁衣裳を2着用意させて持ってきました。もちろんひとつは響歌さまのものです」
孫尚香は手をたたき、呉から連れて来た侍女に響歌を花嫁衣裳に着替えさせるようにと合図をした。
響歌は有無を言わさず服を脱がされ、人形のように衣装を代えさせられた。
「嗣徳さまもお喜びになるでありましょう」
そう言って花嫁ふたりの盛大な華燭の典が始まった。
劉操は『孫尚香の配慮』に驚いたが、夏侯響歌に言葉だけで何もしてやれていなかった自分を恥じた。
――響歌もやはり結婚式を行いたかったのだ。
配慮に欠けていた自分を劉操は悔やんだ。
一方、
花嫁がふたりもいるこの場を壊しては、自分の悪名は百世の後も史書によって残るであろう。
彼は迷い、頭を抱えながら、結婚式でひとりだけ心から祝うことが出来ずにいた。
当然その存在は周りから見ると浮いて見える。
「賈華よ、どうした。わらわの婚礼を喜んではくれぬのか」
異例に花嫁である孫尚香が話しかけた。
――こんな自分に主君の妹君は気をかけてくれる、この方を害さなければならぬのか。
賈華は苦悩した。
そして一大決心をして打ち明けることにした。
「実は拙者は、孫尚香さまを害し、呉と荊州の中を悪化させて攻め入る大義名分を手に入れるよう周提督の内意を受けたものでございます」
これで賈華はもはや呉に帰れぬであろう。
「よくぞ申した、賈華どの!」
言ったのは劉操であった。
「これをもって周公瑾と孫仲謀を離反させる!徐庶、手はずを整えよ!」
今度は劉操が反撃をする番である。
命を受けた徐庶は式から離脱し、さっそく準備にとりかかる。
「賈華どのは私が保護する。あなたの一族も責任もってできる限り荊州へと逃げられるようにしよう。それでよろしいか?」
――真なる主君を見出した、と賈華は劉操に向かって拝礼した。
「嗣徳さま、あの……」
響歌がもじもじしながら劉操に言った。
「なんと……!」
「皆のもの、聴け!夏侯響歌が赤子を授かった!劉家は三代目にして益々栄えるであろう!」
怒涛の展開に劉備一行は歓声を挙げる。
「わらわにも
孫尚香が劉操にねだった。
「そなたは何が好きであるのかな。そこから
「武芸が好きでありましたが、女らしくこれからは生きたい、そう願っております」
「ふむう」
劉操は大歓声の中をひとり冷静に考える。
「では今日よりそなたの名は
疾風怒濤の展開に、劉備一行の大喚声は怒号となり、祝宴は夜が明けても終わろうとはしなかった。
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