第117話周瑜暗躍

「なにッ!ご主君が劉操と弓腰姫きゅうようきの結婚を決めなされ、しかも結婚式を荊州で行うだと!」

 その一報は、周瑜の病状をさらに悪化させた。


「なんということだ。逆にあべこべに荊州が取れなくなってしまうではないか……」

 周瑜は考える。

 ここで呉と荊州の同盟が強化されてしまえば、もはや呉が天下を狙うことは難しい。

 今の劉備が平定した直後の荊州であれば、呉がそれを奪うことも容易い。

 魏が南下してくることも当分ないであろう今が好機である。


賈華かかを呼べッ!」

 周瑜は配下にそう命じて人払いさせた。




「周提督、何かご用でしょうか?」

「うむ、やってもらいたいことがある」

――絶対に口外するな、と周瑜は念を押す。


「弓腰姫と劉嗣徳が結婚する。知っておるか」

「初耳です」

 そうであろう、周瑜も今知ったばかりなのだ。


「その結婚式にそなたは随伴し、ぶち壊せ。呉と荊州の同盟を強制的に破棄させるのだ。手段は問わん。例え弓腰姫が劉家から・・・・命を奪われる・・・・・・ようなことになっても……」

 その内意を賈華は理解した。


「もし漏れれば周提督は主君から処刑されるのでは……?」

「漏れたとしたら、それは君からとしか言えない」

 周瑜は暗に『トカゲの尻尾切り』をすると言っている。


「もはや断ることはできぬ、というわけですか」

「そういうことだ」

 賈華は華やかに感じていた周瑜のドス黒い内面を知って驚愕した。


「女ひとりで国が手に入るのだ。心を鬼にしなくてはならぬ」

 孫尚香がすべてを知っているならば、赤壁の戦い前の『曹操が妻を狙っている』という言葉に逆上した周瑜を文字通り一刀両断にするであろう。


「引き受けてくれるかな?」

「もし引き受けなければ?」

 周瑜は鼻を鳴らし

「君どころか、君の九族は主君の手・・・・によって反逆者として世を終えるであろう」

 と言った。

 忠告どころか完全な脅迫である。


「拝命しました」

「言っておくが」

 周瑜は賈華を見据え

「君に含むところがあるわけではない。逆に君を信頼していればこその命令だ。判断・・を誤らないで欲しい」

 と余計なひとことを付け加えた。


 賈華の心は周瑜から、そして呉から離れてしまった。

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