第115話二人の距離の概算 その4

「なにィ!劉備がすでに荊州を落としただとッ!?」

 周瑜は矢傷を受けた傷を癒しながら、怒り心頭に達した。

「周提督、あまり感情の差が激しくてはお体に障りますぞ!」

 魯粛がそう言って周瑜をなだめる。


「ふむう」

 周瑜は一考する。


「そうだ。魯粛、そなた孫権君の妹君を知っているか」

「はい、一度お目にかかったことがございます。武芸が好きで腰にはいつも小弓しょうきゅうを佩き、人々は弓腰姫きゅうようきとあだ名しているようです」


 周瑜は目をキラリとさせ

「その弓腰姫を劉備のやつめに嫁がせるように骨を折ってみぬか」

 さすがに魯粛は驚き、

「劉備はすでに50歳。それに反し弓腰姫は婚期を逃したとはいえ、まだまだお若いですぞ!」


「そなたはなんでも物事を正直にとりすぎる。この結婚が謀略よ!」

 周瑜は魯粛を鼻で笑った。

「結婚式をこの呉であげさせるようにもっていき、劉備を呼び出し、結婚式が終わった途端に殺せばよい。ならば荊州もすぐ取り返せる」

「しかしご主君がそんなことを認めますか?」

「私がこの結婚を謀略であることをしたためよう」

 そういうと、周瑜は手を叩いて紙と硯を持って来させて一筆したためた。




「魯粛よ、我らが戦うだけ戦って、劉備にまんまとおいしいところだけ攫われて行ってしまったな」

「申し訳ございませぬ。ただ周提督がこの戦勝をもってあべこべに荊州をとりもどせる、と。周提督がその計をここにしたためてございます」

 魯粛は周瑜の手紙を孫権に渡した。


「ふむう」

 孫権は一考し、

「結婚式を呉であげるということであれば、劉備も出向いてこなくてはなるまい。この計は上手くいくかもしれん。しかし一応妹の意志を訊いておかねばならぬだろう」


 孫権は魯粛に云った。

「奥に入ることを許す。弓腰姫にここへ来るよう、命じよ!」

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