第八章 劉操、自我を持つ編

第114話劉操

「孔明、孔明」

 劉操は孔明に語り掛ける。


「そなたの言っていた意味が、君主としての在りかたが、このたびの南郡討伐でようやく私にもわかってきたようだ」

 劉操は、孔明の目を真っすぐ見開いて直視して言った。


「私は特別強くなくても良い。そして特別頭が良くなくてもいい」

「そうです。それこそ漢の高祖のように人材を操り、嗣徳さまの先を見据える目を持ってみんなより一段高いところから歴史を俯瞰していくのです。嗣徳さまにあって玄徳さまにないものを見つけられたようですな」


――そう、自分はただの本名すら忘れた現代人であり、一騎打ちなどしても一合でられる。特別に政戦両略などを思い付くわけでもなく、三国志の史書と結末を知っているだけ。


「歴史を俯瞰することを極める、か」

 それは厳しい道のりかもしれない。

 起こってしまった事象を塗り替えるべくして劉備の嫡子としてこの世に生まれたのだから。


「私は自分の意志を持って漢王朝を復興させる。その露払いを、手伝いをしてもらうことになる。そなたらもそれに応えてくれるか」

 直属の配下となった黄忠・魏延・馬良・馬謖・廖立に劉操は言った。

 そして今は劉備・関羽と共にいる徐庶にも言わなければならない。


 それは義弟である曹丕を敵に回し、義兄になる予定の孫権も最終的には倒すことを意味する。


「孔明、私には中華統一はできるであろうか」

 ここに来て初めて劉操は自分の意志、抱負を述べた。

「嗣徳さま以外の何者にそれが叶いましょうや」




 劉操は馬上で天に向かって手を突き出し、太陽を手のひらで一呑みする。


――そう、自分は劉玄徳の嫡子なのだ。そしてこれから起きることも解っている。父に捨てられ逃げるのはもう勘弁だ。




「世界はすべて我が手の中にある!」

 劉操には急速に自我が芽生えた。


 まるでゲームの三国志を蜀を選んで遊んでいるプレーヤーのように。




「世界はすべて我が手中なのだ!」

 劉操は繰り返した。


 そして劉操は高笑いを始めた。

「フゥーハハハハハハ!世界の支配構造を変革しこの世に秩序と平和をもたらすために使わされた使者、それが私なのだ!」


――いまならエル・プサイ・コングルゥと言ってみたい気持ちがわかる。


「私はこの世に産まれてきた意味をずっと探していた。なぜ私は劉玄徳の嫡子として産まれてきたのであろう、と。鞭打ちを受け、母を失い、父にたびたび捨てられ、生きていく意味があるのだろうか、と」

 劉操の配下は聴き入っている。


「ここに宣言する!我が劉家の最終目標は中華統一ではない!統一した後も続く千年王国を築くことだ!そして中華の史書は殷にはじまり千年王国で終わるだろう。皆の名前も千年のちに伝わるであろう」

 周りの者は皆瞠目した。




「我が名は劉操、字は嗣徳!」

 劉家を操り、徳を嗣ぎ絶やすことないように付けられた名前




「私の力だけではどうにもならない。皆の力を私に貸せ!」

 劉操の配下は全員彼に向って拝礼した。

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