第107話曹操敗走 その5

 同時に曹操も馬を反転させ逃げる。

 何とか最後の力と忠誠心を振り絞った兵たちが突撃してきた一騎だけの関羽の進路をふさぐ。

 だが関羽は文字通り無双をして、青龍偃月刀にて進路にふさがった兵をボーリングのピンのように弾き飛ばす。


「か、関羽よ!このことを後世の者が見たらどう思うであろうか!」

 兵の後ろから曹操が叫ぶ。

「そなたは春秋左氏伝を暗誦できるであろう。まことに歴史の力とは恐ろしい。自分のやってきたことが何十、何百世代も語り継がれるのであるから。余は徐州でちょっとした・・・・・・虐殺を行ってしまい悪名からはもはや逃れられぬかもしれぬ。それでもそなたの元主君であることには変わりはない」

 その言葉に関羽は一瞬刀を振るうのを止めた。


「はっきり言ってしまうと、そなたがここで余を討つとそなたは呂布のともがらとして後世に名が残ってしまうということだ。余は自分の命が惜しくて言っているのでは決してない!そなたが後世に悪名を残すことだけを心配しているのだッ!」

 その言葉に関羽は雷撃に討たれたような感覚を覚えた。


「わ、私があの呂布の輩だと……???」




 関羽は戦闘を止め、馬を奔らすのも止めた。


「私には曹公を討つ資格はない……呂布のような悪名は命を失おうとまっぴらごめんだ」

 関羽は馬上で長大息をした。


「私にはこの者たちは討てぬ……」

 もはやかなりの犠牲が出た後で関羽はひとり呟いた。


 関羽は赤兎馬の向きをクルリと変え、曹操一行から離れた。


「いまのうちに逃げよ、ということか……」

 曹操は手で合図して関羽の元から去り、逃げ出した。

「諸葛孔明、その名を覚えておくぞ!」




「あれが権力を誇った曹操の姿か。敗軍の将とは無残なものよ……」

 関羽はまたしても独白し、そして帰途についた。

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