第12話義兄弟喧嘩

「殿、なんということをなさっておったのですか!」

「羽、お前はわしに黙って何をしておったのだ!」

 義兄弟喧嘩である。


 どっちもどっちだ。

 この一行はどうやら報告・連絡・相談の『ホウレンソウ』が明らかに欠如している。

 各々が好き勝手やって結果としてまずい状況に陥り、そして戦に負け敗走しさまざまなものを失っていく。組織として成り立っていないんじゃないか?


 思えば劉備一行は諸葛亮を傘下におさめるまで国を統治し、そこから兵士と食料を得るというシステム構築ができてないのだ。

 『今出来ることを精一杯やる!』なるほど青春の1頁としては儚げで美しい。

 しかしそれを一国の興亡でやっちゃうのがスケールがでかいのかアホなのか。


「大兄、雲長兄貴、喧嘩もほどほどにしてください。呂布の野郎の軍勢がもう近くまで来ておりやすぜ。他にすることがいくらでもあるでしょう」

「飛よ、お前の馬泥棒がばれたせいでこんな目にあっているのがわからんのか!」

 関羽の大喝が張飛に堕ちる。しかしそれを命じたのは関羽じゃなかったっけ?

「曹操への間者がバレたのも、飛がなにかやったせいではないのか?」

 劉備の詮索の目が張飛に向けられる。いやそれはあんたが勝手にやってたことだろう。

「ふ、二人とも酷いですぞ!」

 この三人は『死すときは同じ』と誓い合っているが、それがなければ殺し合いもしちゃうんじゃないかな。

 誓ってなければ喧嘩で死人が出ちゃう。

 誓いが抑制力と化して血を見ることがないだけじゃないのか。

「三人ともそれまでだ!どうやらおいでなすったようだぜ」

 簡雍が言う。


 呂布がみずから先頭を飾り、大軍を引き連れて到着したようだ。

「劉備よ、我が弟よ!尋ねたいことがあってやって来た。貴様に男としての肝がひとかけらでもあるならば門の前に出てくるがよい!」

 呂布は既に戦闘態勢に入っており、劉備が出てき次第たたっ切るつもりでいた。


「見逃してくれるわけではないようだな」

 力なく劉備は言った。

「当然でしょう」

「俺が一騎打ちで軍勢の多寡など一合でひっくり返してやりますぜ!」

 関羽と張飛は力溢れみなぎった言葉で返した。

「よし、羽は右軍を率いろ。飛は左軍だ。中央はわしみずから率いて決戦を行う!」

 ふたりは『応!』とこたえてそれぞれの準備に取りかかった。


 しかし二人がそれぞれ左右軍を揃えたとき中央軍は居なかった。

 劉備は三十六計の上をいくものを既に終えた後であったからだ。

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