第11話徐州牧・呂奉先の一日 その2

 呂布の加虐心は冴えに冴え、持っている鞭のスピードはそれに比例するように増していく。

「それ吐かんか、吐くと楽になるぞ」

 実をいうと間者は吐こうとしているのだが、口を開けた瞬間に呂布が狙ったように鞭を叩きつけるため吐くにも吐けないのだった。


「言います、言いますから許して下さい……」

 呂布の鞭が一瞬遅れた間に、間者はそう言って許しを乞うた。

「なんじゃ、もう少しで新記録が出そうだったのに」

 何の新記録か間者にはわからないが、呂布は心底悔しそうに鞭を振るうのをやめる。

 呂布にとって酒と並ぶストレス解消の一種なのだ、これは。


「で、曹操と劉備が結んだというのは確かなのか」

 呂布の尋問が始まった。

 言葉より先に鞭打ちがやってくるのが彼の特徴である。

「は、はい……私ども下っ端にはよく知らされておりませんが、それは確かなようです」

「ふむ、曹操はまたもや徐州を攻めてくるのかな」

「わ、わかりません」


「よし、こいつは腰斬ようざんにしろ。わしは劉備のいる小沛をやられる前に攻める!」

「そ、そんな……」


 呂布にとって自らの邪魔になるものはどうでもいい、眼中にないのだ。

 『自分の栄達の邪魔になるのであればそれが例え親子の絆を結んだものであっても排除する』

 それが呂布の信念であった。

 少なくとも何の考えなしに殺戮を繰り返してきたわけではない。

 信念がある分呂布は精神的に強く、また他のものの言い分は聞かないため他人から見れば扱いづらく、いわば滑稽であったかもしれない。


 陳宮からしてみると、最初呂布が彼の進言に従ったのは呂布にとってそれが都合が良かったからだ。

 呂布は自分にとって都合の悪い事であれば良策であっても採用しないであろう。

 下策であっても都合が良ければ採用する。


 誠に呂奉先という男は、単純明快であり見る者が違えば憧憬の情でみられ、また見る者によっては侮蔑の念が耐えない人物であった。

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