第10話徐州牧・呂奉先の一日 その1
呂布は徐州牧を自称した。そしてやりたい放題である。
わずか前に徐州は陶謙が曹操の父を殺したことにより報復・大虐殺を受けた。
しかし呂布は政治能力がないのか、治績を考えることなく、己の欲望を満たすために贅沢三昧である。
ちなみに
その後、兄は身を立てるため継母と共に呉にわたり、弟は別に一家を構え楚(荊州)の地で劉備の三顧の礼まで文字通り晴耕雨読の毎日を送るのであった。
諸葛兄弟ほどの能力があれば曹操に仕えれば
彼らは徐州大虐殺を起こした曹操が主催する王朝に疑問があったに違いない。
そして終生共に曹操に首を垂れるのを良しとしなかった。
結果的に見れば、曹操は自らの蛮行によって天下統一を阻まれたことになる。
劉備一行はあらたに兵を徴募し、呂布ともう一戦構えるための準備中である。
なにせ呂布は偽の印綬を使って好き放題しているのである。
『呂将軍は徐州牧の印を持ってはいるがニセモノらしいぞ』
『なんだって、それじゃ朝廷に対する反逆行為も同然じゃないか』
『やはり徐州牧は陶謙さまが託された玄徳さまでなければならない』
そういう声は少しずつだが確実に広まっていった。というか関羽が広めていった。
関羽は人一倍呂布を憎んでいた。
彼は劉備が世に出ることを望んでいた。
劉備に従った流浪の日々はそれは楽しかったが、歳も三十路をいつの間にか越え、ここらで安住の地をみつけたいと思ったのだ。その平穏を破った呂布が疎ましい。
彼は劉備に連絡することもなく、徐州牧の正式な印を勝手に用いて、自らは動かず張飛を駒として馬を買い集めた。やっていることはフィクサーである。
劉備は劉備で誰にも相談せずに勝手に曹操と結んでいた。
劉操に言わせると『兄弟それぞれが別々の場所で滅亡の歌をハモっている』のである。
「馬泥棒が出ました」
陳宮が呂布に報告した。
「馬鹿め、のこのことそう報告する者があるか。それを何とかするのが家臣である貴様らの役目であろう」
陳宮は確かに呂布を盟主としているが、それはある種の同盟者としてであって家臣となったつもりはない。そこが不満ではあった。
「しかし盗賊は武装し、全員訓練されていました。ただの泥棒ではありません」
「ふむ、心当たりはあるか」
「はい、劉備の義弟張飛がどうやら首領のようです」
「なにィ!」
そしてまた呂布の武将のひとりである高順が報告を持ってきた。
「呂将軍、曹操と劉備の間で書簡の往復がある模様です。あの二人もしかして結束して徐州を攻めようとしているのではありませんか」
「な、なにィ!」
劉備だけならまだ何とかなるが、曹操は一度戦ったことがありその用兵の才は厄介である。
そして二人が組むとより厄介であるのは、足し算が得意な呂布にはよくわかる。
「曹操と劉備の間者は捕まえたのか」
「は、密偵らしきものを捕まえて獄に入れています」
「よし、わし自ら取り調べを行う」
そう言うと、呂布は愛用の鞭を持って牢獄へと向かった。
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