第8話父の友、簡雍

「実は私も雲長と一緒で玄徳が呂布などを信じたのが悪いと思う」

 今まで陰に隠れていた、人物が言った。

「憲和、お前まで何を言うか」

 簡雍かんよう、字は憲和であり劉備の最古参である。


「戦場に連れて行くのは益徳にして留守に雲長を残せばよかったのだ。益徳が禁酒を守れるわけがなく、酒を呑めば下のものに辛く当たるのは分かりきっていること。雲長は同僚には傲岸不遜だが下のものには優しい。そのくらいの適材適所を玄徳はできると私は思い今までついてきたのだがな」

 手厳しい意見だがもっともである。

 この人は史書に書かれていたことをそのまま現在の知識として持っている。

 っていうか関羽が同僚には厳しくて下のものには優しいって、やっぱり縄張り争いに強硬で自分の手下には……ってことでやっぱりアレなのかな?


「雲長の方が益徳よりよほど頭はまわる。それは確かだ。戦場に連れていきたいのは頭がまわる雲長の方だろうが、益徳の方が無謀だが勇猛だ。今回の場合は益徳を戦場に連れて行き、雲長を残しておけばこんなことにはならなかった」

「わかった、わかった。今度そういうことがあれば益徳を連れて行き雲長を留守に残させる。それでいいだろう?」

 これが張飛が蜀攻略戦に参加し、関羽が荊州に残留しその上で失陥するという遠因なんだろうなあ。

 つくづく元をたどればろくなことが起こってない。

 大河も水の一滴からとはいうが、まさかこの一言が20数年後に己の首を絞めることになるだろうとは、簡雍自身にも理解が及ばないことだろう。


 簡雍は直言の士というか諫めているのか放言しているのかどちらかわからないようにかなり傲慢である。

 それでいてどこかユーモラスで反感を買わないのだから、よほど憎めない存在として一行に同行しているのであろう。

 自分のケツは自分で拭くが他人のことまでは知らない、というニヒルな一種の皮肉屋なのだろう。

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