第7話我が義叔父、糜芳

「ほう、竺どのは後漢の功臣鄧禹とううに倣われるか」

 鄧禹は後漢の創業の功臣の中でも序列第一席のものである。

 子孫には後漢の皇后を出したり、蜀漢の功臣でもある鄧芝がいる。

 彼は戦はてんで駄目だったが、尋常ではない人を見抜く目を持っており、光武帝がその覇業を成すときの人選でチート級の面々を推挙している。

『名を竹帛に垂る』とはもとは鄧禹の言葉である。


「玄徳さまこそ高祖を倣っていらっしゃるのでしょう。わかっております。玄徳さまが覇業を成されるのをお手伝いすることが我が兄弟の喜びです。のう糜芳びほう

「………………」

 糜芳はそっぽを向いて黙っている。

 おそらくだが兄である糜竺びじくの方針に内心反対で仕方なしに不承不承従っているのであろう。

 態度だけでここまで表せるってすごい。


「あの野郎、殴ってけじめをつけてやる」

「雲長兄貴、ここはこらえて」

 殴りかかろうとした関羽を張飛が止めた。

 あれ、こういう場合、張飛が怒って関羽がなだめる場面なのに逆じゃないのか?

『けじめをつける』って本当にその筋の人じゃないか。

 やっぱり関羽はヤ〇ザで、張飛は酒を呑まなきゃめちゃくちゃ真面目なのだ。


「糜芳!」

「ちっ、すいませんでした。反省してまーす」

 糜竺にうながされ糜芳はいつかのスノーボーダーのように謝罪した。

 心からの言葉ではないのは誰にでもわかる。

「うむ。竺どの、芳どの、これからもよろしく頼む」

 下手に出るしかないのがスポンサーとそのサポートを受ける者の関係性だ。

 少なくともここで糜氏に見捨てられれば劉備一行は路頭に迷うだけだ。

 劉備自身は関羽と違い自分の立場の弱さを知っている。


 永遠の不満分子、それが糜芳だ。

 彼は現状に満足することがない。できない。

 おそらく自身の運命を自らではなく兄に決められていることも一因なのであろう。

 そして兄と違って劉備一行と折り合いが悪い。

 兄が劉玄徳などという馬の骨とも何ともわからないものを厚遇するにも納得がいってないのだ。

 そして妹が室に入ったことで関羽やら張飛よりも自分の立場の方が上だと思ってもいるのだろう。

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