第5話我が叔父、張飛

 そこへ張飛がやって来て、

「兄者、すまない」

 と頭を下げた。


「取り返しのつかないことをやってしまったな、飛よ」

 関羽が言った。

「殿が大望を果たされる足掛かりになる予定だった地を、そなたの酒癖の悪さなんかで一夜にして失ってしまった。お前というやつは……」

「まあ起こってしまったことはしかたない。羽よ、そうネチネチいってやるな」

――しかし、と言いかけた関羽を劉備は手で制し、

「飛よ、これを糧に成長せよ。何が原因で何か起こったか追求し、二度と同じ過ちを繰り返さないようにするのだ」

「兄者……しかし徐州を失い、奥方さまは死に、若も拷問に合ったというではありませんか……俺は首を刎ねてすべての者に謝罪したい」

「お前が死んだところで失ったものは何も帰っては来ない。忘れたか、生まれた日は違えど死ぬときは同じと義兄弟になったときを。そなたの落ち度は我々3人の落ち度なのだ。生きてこそ恥も雪げよう」

「兄者……」

 張飛は大声をあげて泣きじゃくった。

「土地はまた取り返せばよい。妻はまた娶ればよい。子供はまた産めばいいのだ」

 あっ、やはりそんな感覚でいらっしゃったか。


 こうしてみると張飛が一番まともな人物に思える。

 酒+張飛=事件なら張飛=事件-酒であり、酒さえ呑まなかったら張飛は相当な能力をもった人物なのだ。

 また酒=事件-張飛でもあり張飛がやった数々の部下暴行も毎日浴びるように酒を呑んでやっていたいくらでもある日常の1頁なのであろう。


 また張飛は劉備と関羽に比べると一回りほど若いようである。

 酸いも甘いも噛み分けた落ち目の芸能人にインテリヤ〇ザが交際を要求し、そこに酔って暴行事件を起こして鑑別所から帰ってきた普段はまともで真面目な青年が、気の迷いで義兄弟の盃を交わした。

 これが今のところ劉操が実感したうえで想像した桃園の誓いの実態である。

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