第2話

 「すみません忘れてました」

 「もう次は無いから、心掛けるように」

 「ハイ!!!!!!!!」

 「うるさッ」


 いとサンの伝達。そのあと、置いた荷物を再び掴んでダッシュで教室を出た。あの時のぼくは自己最速を出してたね、絶対。そして、部室に荷物を投げ込んで、着替えを秒で終わらせて、部活道具を持ってコートに駆け込む。

 肩で息をしているぼくとあきら。その背後から、ぼく達の肩を掴む部長。笑みを浮かべているのに、とても怖い。そしたら部長に説教されて、最後に釘を刺された。全力で返事をしたら、央はうるさそうに耳を塞いだ。


 「準備運動各自でした後、いつも通り分かれて練習!」

 "ハイッッ!!"


 部長の言葉で、部員たちが分かれていく。ぼくも準備運動を終わらせた後、ラケットを持ってコートの中へと入っていった。


 ぼくが所属しているこの部活――――――黎明高校硬式テニス部。県内屈指の強豪校であり、強さは代によって変わるが、それでも毎年のように全国大会に出場している。過去には、全国優勝も何度か。所謂、名門校だ。

 ウチの練習形態は特殊らしく、全国的にも珍しい………らしい。ぼくはこの学校の練習しか知らないので、詳しいことはわからない。


 「全員いるかー?確認するぞ」


 ウチの練習は基本、6チームに分かれて行われる。エンジョイチーム、ガチじゃないが部活として楽しむチーム、レギュラー・準レギュを狙うチーム、準レギュラー下位チーム、準レギュラー・レギュラー補欠チーム、そしてレギュラーチーム。

 ぼくが所属しているチームは、準レギュラー・レギュラー補欠チーム。このチームのリーダーは部長である青島あおしま 優大ゆうだいサンが率いているので、通称ブルーチームだ。


 「3年田沼たぬま りゅうー」

 「ほーい」

 「3年鬼塚おにつかそうー」

 「あーい」

 「2年長峰ながみね あきらー」

 「へーい」

 「2年笹田ささだ 勇気ゆうきー」

 「ハイッ」

 「1年若宮わかみや たつきー」

 「はーい」

 「1年藍染あいぞめ いとー」

 「はぁい」

 「………よしっ、全員いるな。じゃあストロークからやるぞー!」


 ブルーチームは7人。準レギュ4人、補欠2人、そして1人。糸サンはたった1人の女子部員で、彼女の実力を鑑みてブルーに入っている。文句を言う人もいたけど、こないだの部内戦でそんな事を言う人は消えた。パッタリ。


 「うん、いつもどおり。打ててる」


 ラケットで出されたボールをストレートに打ち込む。手応えバッチリ、いつもどおりのボールだ。

 4カゴボールを打ち終えて、ボールアップ。爆速でボールを集めつつ、ずっと気になっていたことを糸サンに尋ねた。


 「糸サン、今日って何があるんだっけ」

 「………勇気ユウキセンパイ、もしかしてそれも忘れましたか」


 この人何やってんだろ、と糸サンは胡乱げな目で見てくる。後輩とはいえ、唯一の女子にそんな目で見られたらへこむなあ。ぼくが忘れているのが悪いんだけども。

 しょうがないなあ、というように糸サンはため息をついて、そして親切にも説明してくれた。


 「今日はテレビ局の取材で、ウチの練習風景を取りたい、ということでこんな風になりました。取材はあくまで普通の練習風景を、とのことなんで、本当にいつも通りの練習をやってるそうっす。多分取材はレギュラーの方だけでしょうねあーあー全体に話された話のはずなのになあもう忘れちゃったのかなあ」

 「ごめんて。糸サン、ありがとう」


 反省してんならこのカゴ持ってってください、とボールがいっぱいに入ったカゴ×2を渡される。甘んじてそれを受け入れたぼくは、大人しくカートへと運んだ。


 ジジ……。

 暑さで、肌が焦げる音がした気がする。


 なんとかこぼさずに運び終えて、水分補給。と、いきなりカメラが現れた。


 「こんにちは〜、◯◯テレビの者です」


 そこからインタビューが始まる。対象はブルーチーム全員。どうやら、先にレギュラーチームのインタビューをしたそうで、次はコッチの番。

 インタビュアーは一人一人に質問をして回っている。部長、龍サン、爽サン、………のように。


 「では、笹田くんに質問です」


 次は、ぼくのばん

 マイクを向けられて、一気に心拍数が上がる。身体が固くなって、自分が緊張してるのがよく分かった。


 「笹田くんにとって、青春とは何ですか?」


 汗が、滴り落ちた。

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