第13話 脳腫瘍
彼の体に不調が始まったのは、死刑が確定し独居房に移された頃からだ。先ず、頭痛が始まり、視力低下が続いた。所内で受診後、医師は、死刑を宣告された囚人がなる神経症状と判断した。
経過観察となったが、その後も症状は治まらず、嘔吐を繰り返すようになり、最終的に体の左側を動かすことが不自由になって、誰もが脳の器質的異常を疑った。
湯田は、脳外科の専門病院に移送され、CTとMRIの検査を受けた。だが、スクリーンに映し出された映像からは、正常組織との明確な違いが判断できなかった。
やむを得ず、手術の方針を決定するための開頭手術が行われた。手術室内にMRIが設置され、手術中にMRIを撮影して摘出範囲の探索が始まった。
だが、通常のX線では、把握することができなかったので、特殊な光を照射してようやく非正常組織を光らせることに成功した。
それは意外に大きく、前頭葉を圧迫している状態であることが確認された。転移する恐れはなかったが、大きくなって、これ以上、脳圧が高くなると危険な状態になることが予想された。
手術可能であると判断されると、即座にオペが開始されたが、横たわる湯田のまわりには人影はなかった。術者及び補助者は、超リアルゴーグルを装着して、デスクに向かい、五感センサーつきグローブをはめ、慎重にオペを進めていた。
もし、誰かが手術室内をのぞいたなら、、何本もの機械の腕が動き回っているのに、人間が一人もいないことに違和感いや恐怖感すら抱いたに違いない。
非正常組織が脳組織の奥に位置していたため、Hyper da Vinci(内視鏡下手術支援ロボット)による難度の極めて高い外科手術が執刀され非正常組織は摘出された。直ちに凍結保存され、DNAやRNAを調べる分子生物学的診断を受けることとなった。
組織検査から原始胚細胞由来とされたが、部位からは、そのような所見を裏付けることができなかった。心配された後遺症も発現せず傷が癒えるとともに、初めに頭痛と視力障害が軽減し、次いで体の左側の運動麻痺も消失していった。
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