負けられない戦い

紅野素良

出陣


 ここ数日は震えが止まらない日々が続いた。

 毎日を、出口の見えないトンネルを進んでいる気分でいた。


 今日。今日の1日に全てが懸かっている。

 負ければ全てを失う。

 この戦争、負ける訳にはいかない。


 昔から僕は、鈍臭いだとかどこか抜けていると言われ続けてきた。

 自分でも自覚はあった。

 周りの人たちはみんな優秀だった。でも、負けぬよう努力してきたつもりだ。

 いつしか言われるようになった。

『努力の天才』

 このあだ名を、僕は誇りに思っている。


 布団から抜け出し、リビングに向かう。

 母の作ってくれた朝食を食す。

 珍しく父も起きていて、新聞を熟読している。


 いただきます。


 腹が減っては戦ができぬ。

 満腹とまではいかないが、腹八分目ほどは溜まった。


 ごちそうさまでした。



 洗面所に行き、顔を洗う。

 目が覚める。歯を磨いて、さらにスッキリする。

 髪の毛をセットする。


 自室に戻って、出発の準備を整える。

 持ち物を準備し、戦闘服に着替える。


 玄関には、父と母が見送りに来ていた。

『頑張って、あなたなら出来るわ!』

『……全力を尽くしてこい』

 この言葉が、僕を奮い立たせる


 行ってきます。


 父さん、母さん。必ずや期待に応えてみせます。


 道中、今までの事を思い出す。

 頑張ってきたのは、敵も同じだ。

 でも、努力の量では負けない自信がある。

 過去の辛い出来事が、僕に自信を与える。


 目的地に辿り着いた。

 周りはライバルたちに取り囲まれている。

 そんなことは関係ない。



 この『』勝つのは俺だ!







 席に着き、1度深呼吸をする。


(大丈夫、俺ならやれる)

 そう言い聞かせる。


 カバンの中から、筆記用具を取り出す。


 ゴソゴソ。











 しまった。







 受験票を忘れた。










『えー、皆さん。静かにしてください。今から職員が受験票の確認に周りますので、机の上に置いておいてください』









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負けられない戦い 紅野素良 @ALsky

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