第8話 からかった黎威君
僕は早速思いついたことを実践することにした。
まずは彩楓凜の耳に自分の顔を近づけて。
「彩楓凜」
囁くように彼女の名前を呼んでみる。
「ひゃうっ!? れ、黎威くんな、なに!?」
レポートとにらめっこしながら勉強に集中していた彩楓凜がビクッと体を震わせ、顔を上げて右を向く。
「呼んでみただけ。もしかして……呼んじゃだめだった?」
僕は彩楓凜の横から顔を出し、彩楓凜と顔が向き合うようにしてコテンと首を傾げて泣きそうにしながら問う。
「い、いや! そ、そんなことないよ!」
彩楓凜は慌てながらも首をブンブンと振って否定する。
「そっか。よかったっ!」
今度はニコッと満面の笑みを浮かべてみる。
「はぅあっ!?」
彩楓凜が心臓の辺りを抑えて悶える。
楽しくなってきたな。もうちょっとやろう。
「あれっ、彩楓凜お姉ちゃん。顔赤いけど大丈夫?」
彼女が喜びそうな呼び方をしてみる。
この前「お姉ちゃんになりたい」と言っていたのだ。
「はぅぅぅっ」
茹でダコのように赤くなった顔を両手で塞いでしまう。
次で終わりにしようかな。
僕は再び彩楓凜の耳元で囁く。
「彩楓凜お姉ちゃん。好きだよ」
僕は満足したので勉強を再開しようとした。
しかし彩楓凜を見たらそれが叶わないことを知る。
「黎威くん……私もう我慢できない……」
あ、やば……獰猛な獣みたいな目つきになってよだれを垂らしている。
逃げようとするが、彼女の両手によってがっちりと拘束されていて身動きが取れない。
「お、落ち着いて! ちょっとしたおふざけだから!」
僕は慌てて弁解するも彩楓凜の耳には届いていないみたいで、彼女は反応を全く示さない。
「ふしゃぁあ!」
あ……母さん、父さん、助けt……
✧ ♡ ☆ ✟
うぅ……はぁ。
彩楓凜をからかったわた……じゃなくて僕はお仕置きをされてしまった。
お仕置きが終わって彩楓凜が大人しくなったら、彼女から逃げるように黙々と夕飯を作り出した。
そしてお仕置きをした彩楓凜はというと、ケロッとしてリビングで寛いでいる。
「夕飯もう少しでできますよ」
先刻の恐怖からつい敬語になってしまった。
「りょーかーい。あれ? なんで敬語なの?」
急に敬語で喋ったら当然彩楓凜が疑問に思う。
「……だって彩楓凜があんなことするから」
口では決して言えないことだ……。
あ、でもキスとかはしてないです。
僕は何処かで見守っているかもしれない神様達に説明をしておく。
って見守ってくれていたらさっきのも見られてるか。
「あんなこと?」
彩楓凜は何も分かっていないかの様に首を傾げる。
「え……覚えてないの? さっきまでのこと」
「うーん……なんかよく覚えてないんだよね〜。何かやらかしちゃった?」
……これは完全に忘れてる。
もしかして理性を失っていたのか?
そういえば「ふしゃぁあ!」とか言ってたなぁ……ありえるかも。
「いや、覚えてないなら気にしなくていいよ。あ、夕飯できたから持ってくね」
取り敢えずこれからは彼女をからかい過ぎないようにしよう。
僕はそう深く心に刻んだ。
「はーい! 運ぶのくらいは手伝うよ!」
「ありがとう。じゃあこれお願い」
僕は片側にご飯が盛られた楕円のお皿を二枚指差して、手伝いを名乗り出てくれた彩楓凜に運ぶようお願いする。
「らじゃー!……こ、この盛り方はもしかして!?」
ご飯の盛られ方を見た彩楓凜が何かに感づいた。
「ふふっ。そうだよ。彩楓凜の好きなカレーだよ」
「やったーーっ!」
カレーと聞いてはしゃぐ彩楓凜。
昨日の夜に仕込んでおいて良かったな。
「そういえば……聞き忘れてたけど甘口で大丈夫だよね?」
彩楓凜は辛いのが苦手でカレーも甘口だった記憶だけれど――
「うん! 甘口が良い!」
「合ってて良かった。僕はカレーの鍋持ってくね」
「あいあいさ!」
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