第9話 カレーとまた明日
「「よいしょ」」
僕と彩楓凜はリビングのテーブルにそれぞれ運んできた物を置いて椅子に腰を掛けた。
「どれくらい食べる?」
「大盛りー!」
僕と向かい合うように座った彩楓凜が皿を突き出してきたので要望通りによそって渡す。
「お腹空いてるの?」
僕は自分の皿に彩楓凜より少なめの量をよそいながら聞く。
「んー……頭使ったからかな〜?」
彩楓凜は自分のお腹を両手で触って考える。
「……なるほどね」
頭は余り使っていないはずだ。
何故なら僕が邪魔をしたから。
お腹が空いているのはお仕置きをして疲れたからだろう。
はぁ……なんで僕は彼女をからかってしまったんだろう。
「いただきます!」
ため息をついていると彩楓凜が食事の挨拶をして食べ始める。
「うまーっ!」
彩楓凜はカレーをどんどん口に掻き込んでいく。
「ふふっ。急いで食べる必要はないよ?」
「美味しいんだもん!」
彩楓凜は1度食べる手を止めてから返事をする。
そしてすぐに手を動かして口に放り込む。
「大盛りおかわり!」
ものの5分程度で完食した彩楓凜がおかわりを要求してくる。
「はーい。大盛り2皿は多いからこれでラストね」
「えーっ。もっと食べたい!……うっ」
叫んだせいでお腹が痛くなる彩楓凜。
限界が近そうだ。
「帰るとき歩けなくなったら大変でしょ?」
「そっか……もう帰らないとかぁ」
「そうだよ。泊まるわけにはいかないんだから」
あれ、そういえば彩楓凜が家に泊まったことってないな。
家には何度も来ているから泊まった事もある気がしていた。
そんなことを考えていたら、自分の皿が空になった。
「(もぐもぐ…………も……ぐ)」
僕が自分のカレーを食べ終えた頃、彩楓凜は満腹の体に無理やり押し込むように、口を動かしていた。
「無理しないで。僕が代わりに食べよっか?」
「(コクコク)」
彩楓凜がお腹をさすりながら、カレーが半分残った皿を手渡す。
「今のうちに休んでおきなよ」
彩楓凜は「分かった」とゆっくり頷いて、脱力するように椅子にもたれ掛かる。
じゃあ食べますか。
僕は1度置いたスプーンを再び手に取った。
✧ ♡ ☆ ✟
「……ごちそうさまでしたっと。彩楓凜、動ける?」
「動けるー!」
僕が食べている間に満腹による腹痛も治ったようで一安心だ。
時刻は8時を少し過ぎた辺り。
もう暗いから夜道に気をつけないと。
「忘れ物がないかチェックしてから出発しようか」
「らじゃ!」
彩楓凜はビシッとキレよく敬礼して、持ち物を確認し始めた。
僕も彩楓凜の家まで送るので、鍵などを準備する。
「真っ暗だぁ……」
「そうだね」
2人とも支度が終わったので手を繋いで外に出る。
春の少し凍える夜風がカレーで温まった体に触れて心地よい。
彩楓凛は眠くなってきたみたいで頭をコクコクと揺らしている。
「土日うち来る?」
このままでは彼女の家に着く前に当の本人が寝かねないので次の予定を提案する。
何故提案したかというと、可能な限り彩楓凜の課題を進めておきたいからだ。
「うん……乃藍ちゃん達遊びたい」
「いいね。明日聞いてみよっか」
みんなで遊ぶ日になりそうだけれど、それもそれでいっか。
「うん……ふわぁあ」
彩楓凜の眠気が限界だからあとは何も考えずに帰らせてあげよう。
静かに彩楓凜の家に到着した。
「それじゃあおやすみ。また明日ね」
「おやすみぃ……」
彩楓凜は重い瞼を擦りながら別れを告げる。
彼女が家の中に入っていくのを見届けたら、僕も来た道を引き返す。
「帰ったらカレーしまわないとな」
一人で歩く帰り道は左手に感じていたぬくもりが無く、行きより少し寒く感じた。
✧ ✧ ✧ ✧ ✧ ✧
第1話の一部を修正しました。
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