第7話 一休み

「疲れたー! きゅーけーい!」


 1時間ほど頑張っただろうか。彩楓凜は予想通り1枚終わらせることができた。


「お疲れ様。そうだね、少し休もうか。そうだ、昨日マフィン作ったけど食べる?」


「食べるー!!」


「ふふっ。了解。ちょっと待ってて」


 彩楓凜が目をキラキラと輝かせて食いついてきた為、つい笑ってしまった。


「はーい!」


 僕は冷蔵庫の中のタッパーから、ラップで密封されたマフィンの入ったカップを2つ取り出し、そのまま電子レンジで軽く温める。

 温め終わる前にお盆を手に取り、その上にスプーンと飲み物を2つずつ用意する。

 僕の紅茶と彩楓凜の大好きなりんごジュースをそれぞれコップに入れてお盆に載せたところで、電子レンジからチン♪と音が鳴る。

 マフィンを取り出してお盆に載せ、彩楓凜のいる二階まで慎重に運ぶ。


「お待たせ」


 お盆をテーブルに置いて彩楓凜の前にマフィンとコップを差し出す。


「わぁぁ。フルーツ入りだ! なんか白いのもある!」


「白いのはホワイトチョコだね」


 僕は子供のようにはしゃぐ彩楓凜に説明してあげる。


「食べていい!?」


 よだれを垂らしながらも食べるのを我慢する彩楓凜。

 自分で『待て』が出来るなんてお利口だなぁ。


「もちろん。無くなったりしないからゆっくり食べていいよ」


「うん! あむっ……う、うまーーっ!」


 彩楓凜は目と口から光線を出す勢いで美味いと狂喜し、幸せに酔いしれた顔をする。

 僕はその様子を見て口元が緩みながらもマフィンを口にする。

 うん、まあまあの出来だな。


「あむあむっ…………そういえば、黎威くんはなんでこんなに料理とかお菓子作るの得意なの?」


 彩楓凜はふと疑問に思ったのか質問をしてくる。


「え? うーん、母さんに教えて貰ってたからかな。その後はちょっとハマったっていうのと、小6辺りから母さんが忙しくなって、母さんの代わりに色々作り始めたからかも」


 小6くらいから作り始めたからもう5年以上経つのか。

 今では当たり前の様に朝と夜の2食分作っているけど、作り始めた当時は想像もできないだろうなぁ。


「小6から!? そりゃこんなに美味しいわけだぁ。そんな小さい時からなんてえらいね〜」


 彩楓凜は納得した顔で感嘆した後、何を思ったのか撫でてくる。


「……んみゅ」


 やっぱり彩楓凜は撫でるのが上手くて、ついつい変な声を出してしまった。

 これはやばい、めっちゃ恥ずかしい。

 彩楓凜に聞かれているのではないだろうか。


「んみゅ!? きゃわわーっ!」


 案の定、聞いていた彩楓凜が可愛いと執拗に撫でてくる。


「お願い。聞かなかったことにして」


「いやいや、それは無理だよー」


 彩楓凜がやれやれと困った子を見るような目をしてくる。

 くっ! こうなったら!


「何でも一回言うこと聞くから」


 僕は先程の醜態を忘れてもらうためにお馴染みの伝家の宝刀「なんでもする」を使うことにした。


「何でも!? 何でもだね!」


「……一つだけだよ」


 そうだった……この伝家の宝刀はデメリットの方が多かった。

 僕は軽はずみな発言をしてしまったことを後悔する。


「大丈夫だってー。変なお願いはしないから〜♪」


 口ではこう言ってくれてるが信用ならない。

 彼女のニヤニヤとした顔はごまかせていないからだ。

 貞操が危ないかも……いや、彩楓凜は天然だからそこまで考えられないか。

 覚悟は決まった。


「ありがと。それじゃ言って」


「うーん…………決めた!」


 彩楓凜は少し悩んでから一つのお願いを決める。

 一体なんだろうか。


「黎威くんには私が勉強している間、背中から抱きついてもらいます!」


 ……そんなことでいいのか。

 というか、ちゃんと勉強する気があって嬉しいくらいだ。


「承知致しました」


 難易度の低いお願いにホッと一安心した僕は断る理由もないので素直に従う。


「やったっ。ほら、はやくぅ!」


 早くやれと待てない彩楓凜が急かしてくる。


「はいはい」


 僕は座っている彼女の後ろに腰を落とし、背中から手を回してそっと抱きついた。


「ほわぁ〜。あったか〜い♪」


 彩楓凜はリラックスしたのか僕に体重を少し預ける。

 あ、抱きつかれている訳ではないから緊張も興奮もしないな。

 そうだ。良いことを思いついた。

 名案という名の暇つぶしを思いついた僕はニヤリとほくそ笑んだ。



✧ ✧ ✧ ✧ ✧ ✧


 掲載し始めたばかりですが、諸事情により更新が遅れるかもしれません。

 理由は近況ノートにて載せています。

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