第6話 二人で勉強
僕の家に行くと決まった後、僕達は早速校舎を出た。
僕の前を歩く彩楓凜は、彼女が毎週見ているアニメの歌の口笛を吹きながら、ルンルンと軽快にスキップをしている。
「そんなに夕飯食べれるのが嬉しいの?」
僕が作ったご飯くらい、いつも弁当として食べているのに。
「え? 黎威君の『できたて』ご飯だよ? 食べたいに決まってるじゃん!」
彩楓凜は一部を強調して言ってくる。
もしかして弁当は大体作り置きだから味が違うのかな。
弁当だからといって手抜きをしてはいけないな。
「そこまで楽しみにしてくれるんだ。よしっ。今日は彩楓凜が好きなメニューにするよ」
「ほんと!? やる気出てきたぁぁー!!」
彩楓凜の栗毛色のストレートヘアが夕日の反射で金色に輝いて、スーパーなサイヤの人みたいになっている。
「ふふっ。やる気があるうちにやらないとね。ちょっと走ろうか」
「いえっさー!」
✧ ♡ ☆ ✟
「とうちゃーく! だはぁあっ!」
僕は余裕だが運動音痴な彩楓凜はぜぇぜぇと荒い呼吸をしながら、玄関のマットにうつ伏せで倒れ込んでぐだーっとする。
「そこで横になられると僕進めないんだけど……」
「黎威くん軽いし踏んでいいよ!」
うつ伏せの状態からひっくり返った彩楓凜がグッドサインを送ってくる。
「ええっ……」
彩楓凜が何かに目覚めそうで怖いんだけど。
「大丈夫だよ! なんか踏まれるって思ったら体熱くなってきたけど!」
うん……ここで踏んだら確実にやばいことになる。
そうなったら、たぶん僕は彩楓凜についていけない。
「絶対踏まないよ。動けないなら部屋まで運ぶね。よいしょっと」
僕は彩楓凜が何かに目覚めるという最悪の未来を避けるために、彼女の背中に手を回して上体を起こし、反対の手でふくらはぎを抱く。
いわゆるお姫様抱っこだ。
「ありがと♪」
彩楓凜の顔が赤いのは恥ずかしさからか、それとも嬉しくて高揚しているからか。
まあどちらにせよ彩楓凜が可愛いという事実に変わりない。
✧ ♡ ☆ ✟
「黎威くんの部屋はいつ来てもきれいだねー!」
抱っこで運ばれた彩楓凜は僕の部屋を見て感嘆する。
「毎日掃除してるからね」
「ほぇ〜。とぅ!」
彩楓凜がぽふっとベッドにダイブし、枕に顔を埋める。
「クンクン……黎威くんの匂いするー!」
「……枕カバー交換するの忘れてた。はぁ、彩楓凜が来る時は気をつけてたのに」
「え!? いつも匂わないのそういうことだったの!?」
「うん。だって毎回嗅いでくるから。って早く勉強するよ」
「むぅ。分かったよぉ」
彩楓凜は惜しみながらも枕から顔を離してベッドを降りた。
✧ ♡ ☆ ✟
「ここは分母のルートを外すために、有理化しないといけなくて……」
彩楓凜のレポートはどれも進んでいなかったので、僕はその中でも、彩楓凜が最も苦手な数学を一緒にやることにした。
「はにゃ? 有理化ってなにー?」
僕が振り返り問題のルート5分の3のやり方を教えるが、彩楓凜には伝わらない。
「え? ああ……中3で習うからか。でも去年振り返ったはずだよ?」
「忘れました!」
忘れたのなら仕方ないな。
えっと、彩楓凜でも分かるように――
「有理化っていうのは、同じ数を掛けて、ルートが外れた数にするってこと。えーっと……例えば、『ルート2』なら、『2』みたいな感じ」
「あー! なるへそ!……ってことは、答えは5分の3か!」
「ん?……あ、ごめん。分子にも同じ数掛けること言い忘れてた」
僕も見直したほうが良いかもな。
「そうなんだ! えっとだから…………5分の3ルート5だ!」
「正解。ちなみに分母にルートが2つある場合は符号を変えた同じ数を掛けて、有理化するんだけど……分かる?」
「うーん……なんとなく?」
「やっぱり例を出したほうが良いか。えっとね、この場合だったらこうして……」
「おー! なるる!」
ちゃんと説明すれば理解してくれるから理解力はあるみたい。
この調子なら見開き一ページ分は終わらせられるかな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます