第5話 甘えさせる?

 彩楓凜が甘えさせる発言をしてから数週間が経った。

 その間の彩楓凜はというと……別段、何も変わらなかった。

 『そんなこと忘れているのでは?』というほどに甘えてきている。

 あの発言は一体何だったんだろう。


「黎威くん、今日頑張ったから撫で撫でしてー?」


 放課後、教室で疑問に思っていると、早速彩楓凜が甘えてきた。頑張ったこと……え? 授業中寝なかったことくらいしか思い浮かばない。


「えらいえらい」


 凄く撫でて欲しそうにしていたので、何を頑張ったのか分からないが取り敢えず褒める。


「えっへん!」


 ドヤるほどって……ほんとに何を頑張ったの?

 気になるけれど今聞くと僕が適当に褒めたことがバレてしまう。

 でも気になるんだよなぁ。


「ねえ。僕そのことよく知らないから詳しく教えてよ」


 我ながら完璧な問い方である。これなら――


「へへへっ。しょうがないな〜♪」


 よし。あとは聞くだけだ。


「あのね……今日ママよりも早起きできたの!」


 彩楓凜はグッと親指を立てて僕が気になっていた答えを口にする。


「えっ?……あの彩楓凜が!?……こほんっ。初めてなんじゃない?」


 あのいつも叩き起こされているらしい彩楓凜が自分から目を覚ますなんて……。

 お母さんこと雪葵さんは朝の支度で忙しく、6時には起きているのだ。

 つまりその6時よりも前に起きたということだ。


「初めてだね!……もっかい寝ちゃったけど……」


「ふふっ。寝ちゃったのか」

 

 まあ、1度起きただけでも凄いことだ。

 これを機に早起きを頑張って欲しい。


「うん……結局ママに起こしてもらっちゃった……」


 今までの喜びようとは打って違い「起きたこと信じてくれなかったし……」としょんぼりする。


「じゃあこれからも早起き頑張らないとだね」


「それはむり! 夜ふかししたいもん!」


 ドヤ顔で断固拒否されました。

 そして理由が子供だなぁ。


「夜ふかしは程々にね……あ、そういえばこの前の中間テストはどうだったの? 何も言ってこなかったけど」


 テストの結果が返ってきた時も平然とした顔で笑みをこぼしていたけれど、大丈夫だったんだろうか。


「えっ!?……よ、余裕だったよ!」


 僕の問いに対し彩楓凜は無理に作ったようなぎこちない笑みを浮かべる。


「そっか、なら安心だ。今回はあんまり勉強見てあげられなかったから、やばかったのかと思ったよ」


 案外1人でも出来るんだなぁ。

 褒め称えるとしよう。


「本当だった場合は……ね?」


「ギクッ…………や、やばかったです……」


 彩楓凜は言葉をためるように口をもぐもぐとさせる。そして凍えながら白状した。

 やっぱりダメだったのか。

 これは次に控える期末テストの対策をしっかりしないと。


「今日は僕の家に来てね」


 我が家で勉強会を開くことにしよう。


「は、はい」


 いつもなら家に行けるとハイテンションになる彼女も、行く理由が分かっているのか今は

シュンとしていて、嬉しいという感情がなさそうだ。


「雪葵さんに連絡しないといけないけど、夕飯ご馳走するから」


「ご飯!? する! 連絡する! 絶対行く!」


 先程のこの世の終わりのような絶望した顔から一転し、はち切れんばかりの笑顔で激しく頷く。

 ご飯で釣られるとはちょろいな。

 

「ママ良いって! さぁ行こう! 今行こう!」


 彩楓凜は僕の手をぐいぐいと引っ張って、「はやく! はやく!」と急かしてくる。

 行くと決めてからの連絡が早くてびっくりだ。


「落ち着いてって。行くから……もしや勉強すること忘れてないよね?」


「分かってるってー!」


 目的を理解しているならいいか。……ということで急遽、彩楓凜が家に来ることになりました。





✧ ✧ ✧ ✧ ✧ ✧



 タイトル詐欺になる気がしたので次話にてタイトルを変更します。

「甘えん坊の彩楓凜さんは甘えさせたいらしい」

         ⬇

「甘えん坊の彩楓凜さんが『甘えさせる』と言ってきたが多分忘れている」





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