トミー 我が家のトマトは動き出す③
トミーのいる生活にも慣れてきた。こんなにあっさり馴染んでもいいものかと自分で戸惑う反面、別に危害を加えてくるトマトではないから、まあいいかと思ってしまう。
しかし実際のところ、「なんでもします!」といじられる……おっと失言だ。仕事をする気満々のトミーによって生活の質が変わったかと言われると、あまり変わっていない。
もちろん、トミーにいろいろお願いしてみた。
洗濯物を干す。引っかかって干されている。
床掃除。ルンバの上に乗って歌っている。
風呂掃除。風呂の高さに対してトミーが小さすぎるため、床と床から10センチくらいの壁しか磨けない。
料理をさせるにもやっぱり食材とトミーの大きさに差がありすぎて、自分でやった方が早い。一番いいと思ったのは、床にものを落としてしまい椅子の下に入った時に、それを拾ってもらうことだ。とてもありがたいが、そんなにしょっちゅうものを落とす機会がないところが難点だ。
「天は二物を与えず、か……」
トミーを見ながら、思わずそう呟いてしまった。一万円札にもなった福沢諭吉もそういった気がする、と思って調べたら、諭吉が言ったのは「天は人の上に人を造らず」。少し違った。
トミーが天に与えられたのは、仕事に対するやる気。
こんなに仕事をしたがっているのに、仕事ができないトミー。残念ながら日本社会では、仕事のできない人間は窓際に追いやられるのだ。丁度今、トマトの植木鉢がその位置を占めている。
そして忘れてはならないのは、そのトマトが今も成長を続けているということだ。2個目のトマトが実を結び、赤いトマトができた。
これを、また机の上に置いて放置しておいたらどうなるのか。気になるところだ。トミー二世が生まれるんだろうか。
高校時代の生物で習った「対照実験」なるものを意識しながら、今度は指の爪で摘み取ってみる。前回はハサミで切った。そして白い皿の上に乗せ、机の上に置いておく。まさかハサミで切ったか手で摘んだかで変わるとは思わないが、トマトの実がなりつづけている間、いろいろ実験してみようと思った。
「これ、何してるんですか?」
「さしずめ、トマトによるトマトのための儀式といったところかな」
「?」
不思議がるトミーと、採れたてトマトのツーショットを撮っておく。証拠写真だ。記念写真とも言えなくもないか。
「そういえば、トミーって何食べるの?」
何食べて生きているんだろう。トミーにトマトをあげたら共食いになるんだろうか。そんなことをしたらやっぱりトマト愛護団体に……(以下略)
いろいろくだらない想像をしながら待っていたが、なんの変化も起きない。待つのも飽きてきたから、トミーに聞いてみた。
「……食べていい?」
「どうぞ!」
こいつ、なんの遠慮もなく同胞を売ったぞ。そんな迷いなく言われると、逆にこちらが躊躇してしまう。
「いやいや、トミーもあそこの植木鉢で採れたでしょ?」
「はい!」
「で、このトマトもあそこで採れた」
「……」
「つまり、どういうことが聞きたいかわかる?」
トミーは少しだけ考える仕草をしてから、
「トミーの実家はあそこです!」
と答えた。だめだ会話が成り立っていない。言葉は通じても話が通じないようだ。
「……いただきます」
消えた通販サイトの栽培セットということもあって警戒していたが、意外に甘くて美味しかった。
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