音のないシンガー
@k0905f0905
第1話
加名ハズミは十六才。
ストレートのロングヘア―が眩しいが、
耳も聞こえないし、声も出せない。
職業はジャズシンガーだが、その美貌だけで
口パクで何とか今の立ち位置を確保していた。
「ハズミ、今日もお疲れ様」
マネージャーの藤堂清介がステージを終えた
ハズミに労いの言葉を掛けた。
「よかったよ。今日も」
そう言われても、ハズミには何がよかったのか
よくわからない。
ハズミは一声も発してはいないのだから。
「藤堂さん。私心の底から歌を歌いたいんです」
アイパッドに自分の心の丈をぶちまけてみる。
しかし、藤堂の返事はいつも同じだった。
「歌う必要はない。そんな必要性がどこにある?」
藤堂は冷たい答えを返すばかりだった。
音のないシンガー @k0905f0905
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