ピクニックデート 2


「……すごいですね」

「ですがむさ苦しいですよ。どいつもこいつも線の野太い髭面とゴリラばかりで……家族が揃うとゴリラの群れの中にいるような、そんな気持ちになります。大型犬のような可愛さもなく、毛深い岩の囲まれているような……」

「え、ええと……そ、それは、なんといいますか……」


 そんな地獄のような光景の中、母上だけが可憐であった。

 そう、そんな食卓、リビングで過ごすうちに私は母上大好きっこになった。

 母上のような、可憐な姿にあこがれて、しかし私の中に流れる血は間違いなく『騎士ナイト』。

 ならばせめて、結婚相手は母上のような可憐で守りたくなるような小動物系の男性がいい。

 こんな軍事国家の中で、そんな殿方と出会うのは絶望的だと知っていたけれど――。


「そんな私の前に現れてくださったのがジェラール様なのです!」

「ぼ、僕ですか」

「そうなのです! それはもう! 地獄に咲く一凛の可憐な花! もうジェラール様しかいない。もうジェラール様のような理想の具現化の湯な殿方には出会えないと思いました! 結婚してくださり本当にありがとうございます! 絶対に生涯をかけてお守りし、幸せにいたします!」

「……ハンカチの刺繍だけで大袈裟です!」


 と、いうわけでハンカチには甥っ子の名前を刺繍してもらうことになりました。

 初めての経験なので、時間は多めに二週間hしぃと言われた。

 まあ、甥っ子の誕生日は来月の末なので余裕で間に合うと思う。


「えっと……けれど、その……」

「はい?」

「フォリシア嬢は、王宮で独自の騎士団を結成し、王妃様方にも信頼を置かれ、間違いなく成功した騎士なのに……そ、その地位を投げ捨てて、王都からも離れて、こんな、体調も安定しない僕の妻だなんて……本当に、よかったのか……」


 国の損失では、とまで呟いたジェラール様に目を丸くした。

 プロフェットクラスのジェラール様の方が、国としての重要度ははるかに高いだろうに。

 いや、別にプロフェットクラスでなくても、私は――。


「ジェラール様」

「ッ」


 刺繍枠のついたハンカチを握る手を包む。

 私のごつごつした、血まみれの手と違ってふわふわで綺麗な手。

 自分でごつごつの魔物の血まみれの手を選択したから、ちっとも後悔したことはない。

 むしろ、誇らしいとも思う。


「私はもう、あなたの騎士です。“女らしく”生きることを求められてもそれができなかった私にとって、国に身を捧げる生き方よりも、私はずっと、私だけの主人に仕えることが夢でした。どうか私の生き方を認めてはくださいませんか?」


 目を見開いたジェラール様は、きっと私の言いたいことをわかってくれたのだと思う。

 ジェラール様も、ゆっくりと目を伏せってから涙を零した。


「フォリシア嬢……ふぉ、フォリシアも、僕の生き方を……許してくださいますか」

「もちろんですとも」

「――あ……ありがとう、ございます」


 さっきゴブリンと戦った時に使ってしまった分の魔力もジェラール様の魔力をいただいて、お弁当を食べて、私とジェラール様の関係はかなり近づけられたと思う。

 今夜のジェラール様の体調次第では……む、むふぅー!


「そうだ、昨日ルビに作ってもらった魔方陣で魔石を作ってみたのです。この近くの村に結界用の魔石が足りなくなっているそうなので、ついでに置いてきてしまおうと思いまして」

「ジェラール様が直接ですか?」

「帰る道のついでですが、最近隣の領地から盗賊団が自領に入ったという噂があるんです。ここは最西端の場所で、隣領と隣接していますのでそこから入り込んだのではないかと……。様子を見て、被害があるようでしたら自警団兵を派遣しなければいけません」

「魔物を餌づけして嗾けているという話ですね。旦那様は王都で公務を行っているという話ですので、確かにジェラール様が担うのが妥当かもしれませんが……」


 マルセルが少し、苦い表情。

 小さく「ここは自分に丸投げしていただいてもいいのですが」と言ってる。

 盗賊の対応は、領主の勤め。

 ただ、公爵家や侯爵家の領地は広すぎて、村や町の単位で子爵や男爵に領地の一部を貸したり管理を任せたりするのが一般的。

 うちの実家の領地も広くなってきたので、親類縁者の爵位のある人たちに領地運営を任せている。

 公爵家もそうなのだろうと思っていたけれど、この近辺で一番地位があるのはジェラール様。

 だから盗賊退治はジェラール様にするのが『責任者』としての責務。

 しかし、ジェラール様は剣も魔法も苦手と言っていたからこの表情なのか。


「そこは私を頼っていただければと!」

「えっと、は、はい。でも、危ない、ような」

「大丈夫です! 魔物ならワイバーンくらい一人で倒せますから」

「え、やば……」


 え?

 私たちの視線がジェラール様の後ろにいたマルセルに向けられる。

 今ヤバいって言った?


「えっと、一応村には報告があってから自警団を集めているので、フォリシアには盗賊退治のやり方などを教えていただけたらと思うのですが」

「はい、わかりました」


 指南だけでも、ということなのかな?

 これはジェラール様にかっこいいところを見せる好機!


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