ピクニックデート 1


 天気は晴天。

 うーん、実にピクニック日和だ!


「ルビ!」

「お任せください。ストーンラッシュ!」

「ギャアアアアア!」

「お嬢様、今です!」

「はああああああああ!」


 二段、三打。

 ルビの魔法で魔物の注意を引き、前衛三匹、中衛二匹、後衛一匹の首を切り落とした。

 ゴブリンにしては数が少なかったので、一撃で終わったな。

 ルビも自分のスカートをパンパン、と払う。

 ゴブリンの魔石を心臓部分から取り出して、ルビに死体を燃やしてもらった。

 放置すると大型の魔物が血の匂いに惹かれて近づいてくるからな。

 魔物の魔石は浄化してもらわなければならないから、ルビの[収納魔法]にしまってもらった。


「片づきましたよ~~! ジェラール様~~~!」

「は、はい。す、すごかったです」


 町の見える草原に馬車に乗ってやってきたのだが、町の側にも存外魔物がうろうろしている。

 まあ、倒したのは小物だったけれど。

 とはいえゴブリンはそれなりに小賢しい。

 六匹から十匹なら余裕だが、十一匹以上になると私一人ではちょっと手加減できなくなってしまうよな。

 そんなことより外出着のジェラール様、めちゃくちゃ可愛い!

 海松茶みるちゃ色の服に帽子。

 ジェラール様のふわふわの髪が帽子で隠れてしまうのはもったいないけれど、帽子を被っているジェラール様も可愛すぎる……!

 はあ、はあ……今日のデートでなんとかジェラール様との距離を詰めなければ……はあはあ……!


「この辺りが見晴らしもいいので、よろしいかと」

「そうだな。ジェラール様、こちらへ」

「あ、は、はい……」


 なぜかポカーンとしたジェラール様と、怪訝な表情のマルセル。

 しかし、大きな布を草原の上に敷いて、お弁当の入ったバスケットを開くルビ。

 もちろん、弁当はルビとジェラール様の屋敷のシェフが作りました!


「いかがですか?」

「は、はい。風がとても暖かくて……気持ちがいいです。魔力があたたかい……」


 目を閉じたジェラール様の体の周りに、薄い魔力の膜が目視できるほど激しく循環しているようだ。

 排出されている魔力はやや黒いものが混じっている。

 これが王都に滞在中に吸収してしまった雑念だろう。

 様子を見ていると、ジェラール様の横顔が――可愛い。

 丸みのある顔立ち。

 小さめな鼻。

 ピンクオレンジの小さな唇。

 まつ毛長いし、眉毛も可愛い。

 魔力を纏うジェラール様の、なんと神秘的で可愛らしい。


「――体中の雑念魔力がだいぶ出ましたね」

「はい。体がだいぶスッキリしました。フォリシア嬢、誘ってくださりありがとうございます」

「い、いいえ!」


 まずい!

 すごく鑑賞してしまった。

 いや、だってこんなに可愛くて美しいのだからガン見……もとい鑑賞してしまうのは仕方なかろう。

 しかもこんなに可愛らしい笑顔を向けてもらえるなんて――!

 フッ……鼻の奥の血管よ、我が全魔力を全動員して強化!

 鼻血を全力でせき止めろ!


「よかったです!」


 よし、無事鼻血噴射は回避したな。

 よくやった、私。

 私ならできるな、うん!


「あ、そうだ。フォリシア嬢、これを」

「え? これは――」


 私が無事に鼻血噴射を乗り越えたところで、ジェラール様が手のひらサイズの紙袋をポケットの中から取り出した。

 首を傾げると刺繍枠の設置された布?


「甥っ子さんに渡す刺繍なのですが、メイドたちに教わりながら初めてみたのです。それで、あの、簡単なものなのですが、いくつか種類があって」


 と、言って袋の中からいくつか見本を取り出す。

 花が三種類、猫、犬、持ち主の名前。

 メイドたちに聞いたところ、親類の子どもに贈るものは名前の刺繍が一般的だそうだ。

 一応、ハンカチは婚約者探しの一環に使われるものであり男の子ならすぐになくしてしまうから、名前の刺繍がおススメ、だそうだ。

 え、天才か?

 そこまで考えたことがなかった。


「名前なら初心者でも簡単だろうと言われたので、甥っ子さんの名前にしようと思うのですが、一応フォリシア嬢の意見も聞いてみようかと思いまして」

「はい! 甥っ子も喜ぶと思います! あ、甥っ子の名前ですよね。ロゥニーといいます」

「わかりました。ファミリネームはグラディス、なのですか?」

「はい。二番目の兄の子なのですが、もう独立した騎士爵家の子なのです。騎士爵と言っても、二番目の兄は第二部隊の部隊長なので階級は子爵と同等なのですが」

「第六位上なのですね」

「はい」


 うちの国は軍事国家なので、騎士爵には他の爵位とは違って第三位上だいさんいじょうから第八位下だいはちいげの軍事階位というものが設定してある。

 この階位設定は圧倒的な実力主義であり、下位貴族も魔力と実力があればのし上がるのも全くの夢ではない。

 かく言う私も女の身で第五位上の騎士爵を持っている。

 第六位上の騎士爵は子爵と同等の権威・権利を与えられ、結婚相手によっては世襲も許される。

 その上の騎士爵第五位上は騎士爵以外に子爵の爵位が与えられのだが、領地とか面倒くさいしそんなものの運営に私が向いているわけもないので返上している。

 その辺は金稼ぎが得意な騎士爵のない貴族がやればいいと思う。

 まあ、騎士爵も兼ねて持っていない男の貴族はうちの国では腰抜け、という目で見られて馬鹿にされるのだけれど。

 騎士爵の階級と、兼ねて持つ爵位で立場が上下するのでうちの国はかなり実力重視の国だと思う。

 女も生きにくいが、ジェラール様のような争いの苦手なタイプの男性は、もっと立場がつらいだろうな。


「すごいですね」

「幸いうちの家族はみんな騎士爵第七位上持ちばかりですから、家系なのでしょう」


 なお、そのうちで一番下の階位は私の一つ上の兄である。

 そんな一つ上の兄も第五部隊の分隊長で、実家が来年侯爵家に陞爵が決まっているので自動的に第六位下になるのが決まっている。



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