嫁入り 4


「これからの話をしましょう。私たちの。他の、普通のとは違うかもしれませんが、それでいいのです。どんな形でも”夫婦”なのですから」

「は、はい。そうですね……!」


 相性的に私とジェラール様は一般的な男女の役割を逆転させつつ、事務仕事など本来男性の仕事は私が苦手なのでジェラール様が行う――その他、生活しながら話し合っていこう、ということになった。

 もちろん、どうしても女性が担わなければならない役割は私がやるしかない。

 主に妊娠――跡取りとかねぇ!

 つまり今夜。

 初夜。

 はぁはぁ。

 ――ハッ! ルビの鋭い眼差しが!


「けほっ、けほっ……」

「だ、大丈夫ですか?」

「ジェラール様は魔力過剰症以外にも虚弱気味なのです。ジェラール様、お薬の時間ですよ」

「ご、ごめんなさい」


 そこにマルセルが薬湯を持ってきた。

 匂いがもう苦そう。

 王都でかなり体調を悪くしてしまったのか。

 マルセル曰く「あの我儘王女がジェラール様を突き飛ばしたとお聞きしましたし?」と殺意の籠った真顔。

 そういえばマリーリリー様に突き飛ばされていたな。

 それも身心の負担になっていたらしい。


「でも、マルセルに瘴気病は抜いてもらいましたし、薬湯を呑んでいればすぐに治りますよ」

「絶っっっ対にあの王女は『サタン』ですよ。しかも悪い方の! そうでなければあんなに瘴気が入り込んでいないです」

「……君はサタンクラスなのか」

「そうですが? なにか問題でも?」


 門で出迎えてくれた時よりも数段態度が悪くなっているマルセル。

 いや、きっと気を許して砕けた態度になったのだろう。

 サタンクラスはセイントクラスと同じくらい珍しい。

 ジェラール様が「マルセルは僕が瘴気を取り込みやすいので、いつも助けてくれるのです」と微笑んだ。

 高位貴族の中にはクラス適性の低いサタンクラスを雇って、瘴気を吸ってもらい病を回避したり治療を任せたりするので彼はそのためにジェラール様の側にいるのだろう。

 王都は人が多く雑念が多い。

 自然魔力も雑念という穢れで、瘴気よりは弱いが体にはあまりよくはない。

 王都に住む王侯貴族はほとんど聖教会で祈りを捧げて浄化を行い健康だけれど、ジェラール様のような体質だとやはり王都は合わないのだろうな。

 そして、マリーリリー様をサタンクラスと断じるあたり性格も過激だ。

 マリーリリー様のクラス適性は一応公式ではウィザードと言われている。

 ナイトとウィザードは王侯貴族に最も多い適性だし、本当のところはわからない。

 私は興味もないことだ。

 ただ、あの我儘で苛烈な性格から「マリーリリー様は実はサタンクラスでは」という噂が出回っているのは知っている。

 けれど私はサタンクラスでもマルセルのように能力を人を助けることに使っている者がほとんどだと知っているから、マリーリリー様がサタンクラスだとしてもだからどうした、としか思わない。

 自分のクラスの才能を、どう使おうと、その人次第ではないか。


「そうか。ジェラール様の体調の管理をしているのだな。えっと、ジェラール様の体調は……本当に大丈夫そうなのだろうか?」

「しばらくは安静にお願いしたいですね。町中より、町の外の自然魔力を取り込んでもらって、もう少し王都で入れてきた雑念入りの魔力を排出してきてほしいです」

「ジェラール様の体内の雑魔力は聖教会で浄化できないのですか?」


 と、首を傾げてきたのはルビだ。

 確かに、普通の貴族はそうして体内の雑念魔力が瘴気に変わる前に浄化してしまうのだが。


「プロフェットのクラスはセイントの浄化を受け入れないのです。プロフェットクラス自体、約二百年ぶりに現れたので資料も少なく理由はわからないのですが……」

「なんと……そうなのですね」


 それもそうか。

 キングやクイーンよりも出現率の低い超レアクラスがプロフェット。

 ナイトやウィザードのように特性が知れ渡っているわけではない。

 まだまだ未知の部分が多いのだろう。

 もしかしたら魔力過剰症もプロフェットのクラス特性かもしれないし、魔力が安定しないから予言や予知夢を見ないとかではなく……他にもなにか条件があるのかも?


「体質とも関係あるかもしれないのですか」

「どうなのでしょう? 前回のプロフェットが魔力過剰症だった記録はありませんでした。国王陛下も資料以上の記述はない、とおっしゃっていましたし。けれど、クラス能力の覚醒は幼少期からあるものだといいます。プロフェットもそれは変わらないはず、と」

「なるほど……まあ、考えてもよくわかりませんし、今は体調を整えることを優先しては? あ、そうだ! ジェラール様、ピクニックに行きませんか?」

「え?」


 私の提案に、ジェラール様とマルセルが目を丸くする。

 ジェラール様の体調が悪いのであれば、まずは体調を整えていただかねば。

 そうでなければ――初夜に漕ぎ着けない!

 私との初夜でまた体調を崩されては、いたたまれない!

 いや、そもそも……初夜失敗……なんてことになって「もう二度とできません」なんて言われでもしたら……!

 嫌だ! ジェラール様に拒まれたら死んでしまう自信がある!

 ジェラール様絶対可愛いじゃないか、絶対に私、無理させてしまう!

 つまり安全な初夜を迎えるためにも、まず最優先するのはジェラール様に嫌がられないようにすることと体調をよくしていただくこと!

 この二つを達成するにはピクニックで私をもっと信用していただきつつ、町の外の純度の高い自然魔力を取り込み、雑念魔力をより多く排出していただく!

 これだろう!


「町の外の自然魔力を取り込んだ方がいいのですよね? 私が一緒なら魔物なんて恐れるに足りません! ついでにのんびりピクニックでリフレッシュいたしましょう!」

「まあ、フォリシア様を襲う魔物は可哀想ですね」


 お、なんだ、ルビ。

 ブーメランか?

 そっくりそのままそのセリフお返しするぞ。


「……いいのではありませんか? 旦那様にも体調を最優先に、と申しつけられておりますし」

「そ、そうですね。ピ、ピクニック……僕、実は行ったことがなくて……ほ、本当にいいのでしょうか?」

「もちろんです! では明日!」

「は、はい! ぜひ!」


 おっしゃーーーーー!

 デートの約束ゲットーーーーー!!



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