盗賊討伐 1
ティーロの町に帰る途中、町の西にあるスタの村という場所に寄る。
村というよりは集落に近い。
しかし、そんなのどかそうな村に派武装した男たちが十人ほど立っていた。
見たところ騎士団の見習い程度の装備で、おそらく貴族ではない。
魔力を持たない平民の集まりだろう。
もしかして、あれが自警団というやつなんだろうか?
「魔物を餌づけして魔物に村を襲わせているという盗賊の話を聞いたのだが、この人数でなんとかなるのですか」
「まだ情報収集の段階なのです。あれらは斥候と警護ですね」
「……フォリシア様?」
ルビが私の名前を呼ぶ。
村の建物の配置、自警団の装備、数。
確かに情報が少ない。
魔物を餌づけして、魔物を嗾けて略奪行為を行う――魔物を餌づけして手懐けるやり方は、意外と難しくはない。
元々魔物は自然由来の生き物で、ナイトクラスの中には飛竜種のドラゴンを対話で手懐けて共に戦う[ドラゴンナイト]がいる。
魔物は同種でなければ同じ魔物も食らう。
だから人間が魔物を手懐けることはないわけではない。
相性と、魔力の量も関係するのではないか、といわれている。
だが、魔力のない平民が魔物を手懐けるというのは……。
「実際に襲われた村はあるのでしょうか?」
「隣の領地の村がいくつか襲われたそうです」
「盗賊がつれている魔物の情報はありますか?」
「サイクロプスではないか、と言われています。巨人系の一つ目の魔物だとのことで……ですがノーマルサイクロプスなのか、人間に手懐けられるような新種の魔物なのか、まだ確認が取れていないとのことで……」
「詳しくは自警団の兵に聞いてみましょう。そのために来たのですから」
私があまりにも聞いてしまったので、ジェラール様をマルセルが庇うように間に入ってきた。
ちっ、おのれ。
ジェラール様が見えないではないか。
でも、仕方ない。
ジェラール様が苦手なことは私が担当する。
戦いに関することなら――私の得意分野だ。
ジェラール様にいいところを見せる好機……気合いが入る!
「フォリシア様、顔」
「え? なにかヤバいことになっていたか?」
「悪い顔になっていましたよ」
「な、なんだと……」
いかんいかん。
顔をぱんぱん、と叩いて村中に立っている自警団員に盗賊についての情報を聞いて回った。
それによると、盗賊の出現時間は昼間が多い。
斥候が集めた情報によれば巨人の魔物は二体。
盗賊の数は三十人ほど。
馬はなし。
村の自警団は十二人。
警備はしているが完全に素人の配置。
しかし、盗賊の出現時間が昼間というのは奇妙だな。
使っている魔物の生態が関係しているのだとしたら、夜行性ではない魔物、ということになる。
夜行性でない魔物は人間と共生しやすいものが多いから、サイクロプスとは考えづらい。
なによりサイクロプスは単体生物。
群れない魔物で、同族と見れば殴り合いを始める。
発情期以外では縄張りを争い合い、お互いの強さを戦いで示す種だ。
そんなものが人間に傅くとは思えない。
サイクロプスに似た、もっと穏便な魔物……。
「フォリシア? あの、なにか気がかりなことでもありましたか?」
「はい。ジェラール様、今日中に罠を仕掛けて盗賊を迎え打ちましょう!」
「え? ええ?」
「魔物の正体がなんとなくわかりました。予想が正しければ、やつらは昼間に行動するはずです! 罠を仕掛けておけば、この人数でも十分に戦うことができます!」
困惑するジェラール様を説得して、村の周りにルビの魔法陣を設置する。
ジェラール様が持ってきた魔石をその魔法陣に置いていき、足りなければ作ってくださった。
最初こそ怪訝な表情のジェラール様だったが、村のために自分ができることがある、と嬉しそう。
可愛い〜〜〜〜。
もうジェラール様はいつもいつでも可愛くて、存在自体が私のやる気そのものです!
ジェラール様が協力してくださるのだから、魔物も盗賊も全部私がぶちのめしてしまおう。そうしよう。
「魔法陣の設置、終わりました」
「ご苦労、ルビ。ジェラール様も魔石をありがとうございます!」
「いえ、お手伝いできてよかったです。……ところで、この魔法陣は……?」
「結界が半分。もう半分は『魔寄せの血臭』という魔法です。本来の使い方は魔物討伐の際、目的の魔物を呼び寄せるものです」
「目的の魔物を……? ということは……フォリシアは盗賊が連れているという魔物がなんなのかわかったのですか?」
ぐぅ。
首を傾げるジェラール様が可愛い。
上目遣いずっるい。
戦う前に鼻の血管と筋肉を最大限に強化するのに魔力を消費してしまう。
後ほどジェラール様に消費した分の魔力をいただかねばなるまい。
ちょっと魔力の使い道がアレだからいただくの申し訳ない気がするけれど。
私の魔力消費の原因がジェラール様が可愛いからだから仕方ないよねっ!!
「フォリシア?」
「あ、申し訳ありません。はい、盗賊たちが連れている魔物はサイクロプスではなく――」
もちろん、私の予想だ。
けれど、経験則に基づく予想。
ルビにいくつも魔法陣を描いてもらい、それをジェラール様にも渡して後方に控えておいていただく。
マルセルには村人を家の中に入れてもらい、自警団の者たちには私が考えた指示で配置につかせる。
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