廃校ダンジョンにて

「すげぇな、この剣。 レベル1ダンジョンのエネミーならば一振りで真っ二つに斬れる」


 アパートの近隣に発生した廃校ダンジョン内に入り、次々と現れるエネミーを凛から貰ったミスリルの剣で斬り伏せていく謙二。

 その切れ味に驚きながらも、彼は廃校ダンジョンの奥へと進んでいく。

 

「市立大宮泉小学校だった場所か……。 20年前に廃校して以来、解体作業が進んでいない……か」


 待ち構えていたエネミーを斬り伏せた謙二は、スマホで自分がいる廃校ダンジョンの内容を確認していた。

 ここはかつて【市立大宮泉小学校】だった廃校舎であった。

 廃校になったのは20年前なのだが、どういう訳か今に至るまで解体作業が進んでいないのだ。


「なるほどね……」


 スマホでダンジョンの元となった学校の概要を見ていたら、スマホのアラームが鳴ると同時に、謙二の前方にゴーストが出て来た。

 このゴーストの姿は、いわゆる【トイレの花子さん】にそっくりさんだ。

 そして、右側には人体模型が動いていた。


「こいつらを始めとした怪異ってやつが解体工事を拒んでたのか。 聖水を用意してよかったぜ」


 謙二は、これらが原因の元だと断定し、即座に聖水をゴーストや人体模型に向けて振りまいた。


『ギョエェェ……!!』


『アガガガガガ……!』


 すると、花子さんそっくりのゴーストは、瞬く間に消失し、人体模型の方はジタバタした後で動かなくなった。

 謙二は、念のため動かなくなった人体模型を破壊した。


「多分、こいつらに解体業者が呪い殺されたりしたんだろうな。 だから、以後は依頼できずにそのままになって、今はダンジョン化したわけか」


 ゴーストや人体模型を駆逐した謙二は、上を向いたままそう独り言ちた。

 長年解体されなかった理由が、廃校になっても蠢いていた怪異に、解体業者の人達が呪い殺されたりしたからだろう。

 それが他社の解体業者にも伝わり、結果としてこの学校は誰も解体してくれないまま、今まで放置されて、現在はダンジョン化したのだ。


「さて、先に進むか……」


 聖水のストックを確認してから、謙二は先に進むことにした。

 この先のアクシデントに遭遇する事も知らずに……。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「ふぅ……、まだあかんなぁ……」


 一方で、謙二と同じ廃校ダンジョンにいるが、別の入り口から入っていた美波は、杖を手にため息をついていた。


「ユニーク扱いされてる転移スキルを使って、わざわざこの廃校ダンジョンに来たんはええけど、ゴブリンですら一撃で倒せんとは……」


 彼女は、ユニークスキルである【転移テレポート】を使って、レベル1の廃校ダンジョンに来たのだが、どうやら彼女は杖でゴブリンを倒そうとしていたようだ。


「こんなんじゃ、魔法系スキルを封じられた際に何も出来ずにあんな事やこんな事されちゃうわぁ」


 彼女が何故、魔法系スキルを使わなかったかというと、今後のために杖でエネミーを倒そうとしているのだそうだ。

 レベルの高いダンジョンには、魔法系スキルを封じるエネミーがいるので、そうなった場合には、物理で対応しないといけないからだ。

 だが、彼女は非力なのか、ゴブリンですら一撃で倒せなかったようだ。

 さっきのため息は、それによるものである。


「ともかくもう少しだけ、エネミーを杖だけで戦ってみよう」


 美波がそう呟きながら、少しだけ奥の方へと進む。


「今度も怪人か。 コボルトやな」


 少し奥に進んだ所で、美波はコボルトという怪人と遭遇する。

 現れたのは一体だが、剣を持っているので、危険度は高いだろう。

 美波が入ったのは、裏門とされていた場所からなので、この辺りはおそらく怪人の住処になってるのだろう。


「ともかく斬られないように立ち回っては杖で殴るしかないね」


 そう言いながら、美波は杖を構えて戦闘態勢に入る。


「てえぇぇぇい!!」


「グエッ!!」


 そして、一気にコボルトに杖で殴りつけた。


「ウガッ!!」


「ひゃっ、危なっ!」


 殴られた事に腹が立ったのか、コボルトは剣で反撃する。

 美波は、それを咄嗟に回避して、一旦距離を置いた。


「危ないなぁ。 近接寄りの人ならここからすぐに仕掛けられるけど、うちは後衛寄りやさかいに……」


 咄嗟に回避した時に少しバランスを崩したようで、前衛寄りの攻略者のような即攻撃とはいかない。

 再度、杖を構えて何とか距離を詰めようとするが……。


「シャアッ!!」


「ひゃわっ!?」


 コボルトが美波の足元を剣で薙ぎ払ってきた。

 咄嗟の攻撃に、美波はバランスを崩してしまい……。


「あうっ!」


 そのまま尻餅をついてしまう。


「え……!?」


 美波は、尻餅をついたままコボルトを見て愕然とする。


(もう一体いる……!? いつの間に……!?)


 いつの間にか、コボルトが二体になっていた。

 どこかで隠れていたのだろうか?

 彼女が尻餅をついたタイミングを狙って出てきたようだ。


「グギャアァァァァ!!」


「へっ!?」


 しかし、そのコボルトは何者かによって真っ二つに斬られたようだ。

 突然の事に美波は呆然となる。


「あんた、大丈夫……か?」


「ふぇ?」


 二体のコボルトを屠った男性が美波に声を掛けたところでその男性は固まった。

 美波は、自分の状態に気付いてすぐにスカートを押さえるのだった。


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る