友人との語らいとある財閥の憂鬱

「調子はどうよ、謙二?」


「まぁ、ぼちぼちだな。 そっちは?」


「俺も順調さ。 まぁ、個人攻略者はパーティーを組めない制約があるからな」


「ああ、確かに。 とはいえ、俺は不便じゃないがな」


「お前の場合は両親がある財閥に間接的とはいえ殺されたからな……。 とはいえ、レベル4以上のダンジョンは最悪パーティーを組まないと攻略が厳しくなりそうなエネミーがわんさかいるらしいぜ」


「なるほどなぁ……」


 手続きを終えた際に出会った謙二と悠斗は、市役所内にある喫茶店で語り合いをしていた。

 ダンジョンの事や攻略者関係について色々と。


 その話題の中で、現在は攻略者パーティー関係の話をしていた。

 ダンジョンにはレベルが設定されている。

 ダンジョンのレベルは1から6まであって、数字が大きいほど難易度の高いダンジョンとなるのだ。

 悠斗が言うには、レベル4以上のダンジョンはパーティーを組まないと対処が厳しいエネミーがわんさかいるという。


 だが、謙二と悠斗個人攻略者であるために、個人勢の制約としてパーティーを組めないという。

 これは、パーティーでダンジョンを攻略した際の報酬の分配で、トラブルを起こさない為の制約なのだ。


「いくら3年前に報酬の分配面でトラブルが頻繁に発生したからだと言っても、今の現状ではなぁ」


「そうだよな。 今の俺はまだその時じゃないが」


 尚、この制約が施行されたのは3年前。

 それまでは、個人勢でもパーティーを組めたのだが、報酬の分配でトラブルが相次いだ為に、今の首相が制約として個人勢はパーティーを組めないとしたようだ。


「そういや、今でもそういう制約があるのを知ってて、個人で攻略者になっている人たちが増えてるんだろ?」


「スタッフさんに聞いたらそうらしい。 中には企業を退職して個人勢になった人もいるみたいだし」


「それだけメディアを買収してまで押し付けようとした財閥が許せないんだろうな」


 やはり、悠斗も企業勢よりも個人勢が多くなっている事は把握しているみたいだ。

 前述の個人攻略者の制約がある事を知りつつも。

 そうなる程に財閥のやり方を許せないという人も多いのだろうとも。


「とにかく俺達は、地道にダンジョンを攻略して潰していくしかないしな」


「そうだな。 明日には廃校のダンジョンに行くつもりだ。 悠斗は?」


「俺は、明日はお休みだ。 ここ6日連続で攻略したからな。 身体の疲労が溜まってる」


「ああ、そうか。 回復スキルは、傷は治るけど、疲労に関しては一時しのぎだしな」


 女神が与えられたスキルには回復スキルがあるのだが、これは受けた傷を一瞬で治したり、状態異常を治す事が出来るが、一部に関しては一時しのぎにすぎないのだ。

 大怪我や火傷などは結局、病院で治療を受ける必要があるし、蓄積される疲労に関しては、数日ゆっくり休む必要があるのだ。

 悠斗は6日連続でダンジョンを攻略しているので、その分の疲労が蓄積されたので、明日は休む予定なのだ。


「ひとまず、もう一杯コーヒーでも飲むか?」


「ああ、そうしよう。 マスター、コーヒーのお代わりを」


「かしこまりました」


 二人は今日の仕事を労うかのように、喫茶店でコーヒーを飲みながら、まったりとした時間を過ごすのだった。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 その一方で、ある財閥の大部屋にて一人の少女が入って来た。


「お父さん」


「おお、美波か。 丁度良かった」


 美波みなみと呼ばれた黒のセミロングの少女は、おそらく財閥の当主であろう男性の前で、正座をして座った。

 二人の顔には疲労の色が隠しきれていないようだが……。


「関東で活動している個人攻略者の子に、佐川家がスカウトをしたそうやで」


「あー、なりふり構わずか。 結果は見えとるのやろ?」


「うん。 対策庁のスタッフさんを介してお断りを入れてた」


「そうやろうな。 何せ彼の両親は、あの三大ブラック財閥の犠牲になったからな。 しかも、メディアを乗っ取って、自分達に逆らう者はこうだと見せしめにしとったからな」


「ただでさえ、あいつらのせいで財閥のイメージが悪化しとるのに、さらに火に油を注ぎよったんよね……」


 ため息をつきながら、美波と当主である彼女の父親がそんな話をした。

 ただでさえ、財閥に対するイメージが世間では悪化しているにも関わらず、火に油を注がれたのだ。

 メディアを掌握してまで、その者は攻略者を押し付けようとしたのだろう。

 財閥に逆らう者は、死をという押しつけを。


「メディアでは、やらかした財閥の名前は伏せられとった。 それが余計に悪化して、結果的に個人攻略者に変えた者が増えたんや」


「うちの所は理解者が多いから、そうはなっとらんのやけど、他の財閥お抱えの企業は、かなり焦っとるね」


「うむ。 しかも、日本じゃダンジョン攻略の様子を配信できないというルールも悪用された感じやしな。 それだけでも世間的に財閥へのイメージは悪化しとるしな」


 ダンジョンの出没は、福井の例の場所での歪みの発生が確認されてからは、他国でもダンジョンが発生したらしい。

 だが、他国では攻略の様子を生配信することで、状況を手に取るように分かるので援軍なども要請しやすいが、日本ではそれが戦闘の集中力が散ってしまうという理由で禁止されている。

 そのルールをある財閥筋が悪用した形になったようだ。

 配信できないという事は、不正をしたり、隠蔽しやすくなるからだ。


 それが、今回のニュースで多くの国民が理解してしまったようで、そこから財閥に対するイメージが世間的に悪化したのだ。


「今回は、ある筋を使って政府に提言させてもらった。 攻略内容を配信できるようにしてほしいとな」


「他国じゃ配信しとるもんね。 うちも見たけど、日本が一番遅れてるんよね……」


「例の財閥やお花畑の野党が邪魔しなければいいんやけどな」


 当主は、ある筋を使ってダンジョンの攻略内容を配信できるようにしてほしいと政府に提言していた。

 これをある財閥やお花畑の野党に邪魔されないことを祈るしかないのだが。


 そう考えてしまった当主と美波は、深いため息をついていた。


「明日にはうちも簡単なレベルのダンジョンで鍛えてくるよ」


「レベル1のダンジョンでか? 確かに魔法スキルが封じられた場合には殴らにゃならんか。 まぁ、気を付けてや」


「うん」


 そして、美波は明日の低レベルダンジョンで鍛える旨を当主に伝え、当主もそれを認めた。

 これが、ある人物との出会いになることを知らずに……。

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