報酬の確認と謙二の現状

「お疲れ様でした、坂本 謙二様。 これがダンジョンクリアの報酬と戦利品の買取後のお金です」


「ありがとうございます」


 謙二が住処にしている都市の市役所にある【ダンジョン対策庁】の支部のスタッフからダンジョンのクリア報酬と戦利品の買取後のお金の明細書が渡された。

 なお、基本は報酬の受け取りの為に口座の登録が必要で、手渡しされる事は余程のアクシデントが起きない限りない。

 謙二もネット銀行の口座を持っていたので、それで報酬を受け取る形にできたのだ。


(さて、今日の明細は……)


 謙二は待合室の座席に座って、明細書を見る。

 今回はどれだけお金が入ったのかが気になるのだ。


(まず、ダンジョンの攻略報酬は……、手取り1万か。 で、戦利品は手取りで占めて2万5千円か。 意外と多く貰ったな)


 今回、謙二が攻略した【北別府ビル】という廃ビルタイプのダンジョンは、ダンジョンレベルは3。

 低くはないが高くもない、謙二クラスの者なら攻略も容易いダンジョンだ。

 なので、報酬の相場は大体は手取りで7千円程度が妥当だ。

 だが、今回はレベル3にも関わらず、手取り額が高めだった。


(そういえば、あそこの廃ビルにはガッシャスケルトンというDランクのアンデット系エネミーががいたな。 それが原因か……。 確かに浄化の聖水を使用した記憶がある)


 今回攻略した廃ビルは、アンデットが徘徊していた。

 アンデットタイプのエネミーは、通常の攻撃では倒せず、光の属性を持った特定の魔法スキルや浄化の聖水という道具がなければ倒せない。

 それ故に、報酬が他のレベル3のダンジョンより多くなったとみられる。


 そして、謙二は明細書の中の天引き額の項目を見る。

 そこには、住民税と所得税の天引き額が記載されていた。


(しっかり所得税と住民税も引かれてるな。 まぁ、企業に属してないダンジョン攻略者だから、今は確定申告もしなくていいからな)


 ダンジョン攻略者には、謙二のように何も属していない攻略者と企業所属の攻略者がいる。

 前者は、確定申告をしなくていい代わりに、報酬を受け取る際に所得に応じた所得税と住民税が天引きされる形で納税する仕組みだ。

 そして、後者は従来通りに年末調整が必要になり、控除などに応じて確定申告が必要になる。


(殆どの攻略者は、企業所属だしな。 といっても俺は、企業には属したくないんだよな。 特に財閥が関わる企業には)


 なお、殆どの攻略者は企業に属しているし、基本的には努力義務だ。

 しかし、謙二のようにある理由で例外的に個人活動が認められるケースもある。

 ちなみに彼は、ある事件があってから企業を……特に財閥が関わっている企業を嫌っているために、高卒で個人攻略者になったのだ。


「謙二さん」


「あ、スタッフさん、どうされました?」


 そんな事を考えている謙二に、一人の女性スタッフが声を掛けて来た。

 その声に我に返った謙二は、スタッフに尋ねる。


「別の財閥と、そこが運営する企業からのスカウト申請が来たのですが、こちらで断っておきました」


「またですか……。 わざわざすみません」


 どうやら、謙二に向けたスカウト申請のようだった。

 しかも、謙二が忌み嫌う財閥と、財閥に属する企業からのスカウトだったようで、スタッフが丁重にお断りを申したそうだ。

 これは謙二が財閥相手に顔を見たくないという感情があるからだと、そのスタッフが知っているからこそできる行動だ。


「いえ。 私自身もあなたの身の上を知ってますから」


「助かります。 俺の両親は、財閥の奴らに殺されたようなものですから」


 そう。

 謙二の両親は、彼が高校三年生の時にある財閥によってエネミーの集団に放り込まれ、そのまま食われて死んだ。

 その様子がニュースで放映されたが、財閥の行動を称賛した上で、財閥に逆らう者はこうだと見せつける報道だったのだ。

 その後に、ある財閥がメディアを全て掌握していたことが判明し、首相によってブラックリスト入りしては、捜査に入ったが、証拠が隠滅させられ、未だに進展がないのだ。

 その上で、特定の野党が邪魔をしているので、思うほどに捜査が進まない状況なのだ。


「メディアを掌握して、財閥に逆らわないようにして攻略者を屈服させるつもりだったでしょうけど、結果は逆になりましたしね」


「最近になって、企業に属していた攻略者が、退職して個人勢となった人が増えたんでしたっけ」


「そうですね。 ネットでは財閥の行動を批判してましたしね。 世界でもフルボッコですよ」


「でしょうね。 ネットを甘く見たんだと思います」


「とはいえ、過去に起こったトラブルが原因で、個人攻略者はパーティーを組めないという制約はありますが、謙二さんは問題なさそうですしね」


「ああ、確かにそういう制約はありましたね」


 だが、最近の流れでは、企業に属していた攻略者も退職して、謙二のような個人勢に変更する人が増えて来たと言う。

 それだけ、財閥の行動が間違っていたと言う表れだろう。

 今回のスカウトも焦りから来るものだろうと考えている。


 とはいえ、個人攻略者はパーティーを組めないという制約はある。

 過去にある理由によるトラブルが頻繁に起こったからだそうだが、今の謙二には然したる問題ではないだろう。


「これからも財閥のスカウトが来てもこちらで断りを入れておきますね」


「ええ、お願いします」


「ただでさえ、最近の財閥のイメージは悪くなってる所で、去年の事件ですからね。 財閥も必死でしょうけど、こちらも【攻略者保護法】に則った行動で対処しますよ。 それでは」


 そう言いながら女性スタッフは持ち場に戻る。

 彼女が言うように、財閥のイメージは時が経つにつれて悪くなっていたのだが、去年のある財閥の行動で大爆発し、ネットでは炎上し続けている。

 下手したら、手段を選ばなくなるだろうが、現在の日本には【攻略者保護法】という法律がある。


 基本的にライセンスを渡す国が、攻略者の人権を保障すると言うもので、それを犯そうとする者には最悪死罪が待っているという。

 これには、政治家も対象となっており、特定の野党の議員に対しても10人くらい執行されたという。

 そのうち5人は、あまりにも酷かったらしく、死罪が確定しているのだ。


「お、謙二」


「あ、悠斗はると


 そこに、別の窓口で完了手続きを終えた男が、謙二に話しかけて来たのだ。


 彼の名は、小樽おたる 悠斗はると

 謙二の高校時代の友人で、同じく高卒と同時に個人攻略者として活動している一人である。


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